下着は精密機械だ | 月かげの虹

下着は精密機械だ


通勤電車に揺れる鈴木麻子の目が朝刊の記事に輝いた。

これをブラやインナーに応用できないか…トリンプ製品に新しい驚きを与える企画チームの若きリーダーには、すべてがアイデアソースになる。

ホームでは女性を観察しながら歩く。ファッション感度に日々磨きをかけるユーザーをキャッチアッブできているか…自らに問いかけているかのようだ。

オフィスに着くとスタッフを召集した。会議室に朝刊を広げ、下着とは関係ない情報も敢えて製品に結び付ける。そんな発想トレーニングも画期的コンセプトの母なのだ。

こうして鈴木たちが生んだ新発想は、開発部門に送られる。そのベテラン、松浦紳一郎。どこか少年のような印象は一途な研究心のせいだろう。

10年ほど前の松浦への依頼はこうだ。美しい胸の谷間を、かつてない方法でつくれないか…彼は直感した。

それには左右のカップ自体を寄せることが最良で、着ける人自身が寄せ具合を選べるアジャスターがセンター部分に必要だと。

理想的な構造を思い巡らし、従来品からかけ離れた次元の精度と強度のアジャスターを製作できるメーカーをひたすら探した。

ようやく話にのってくれたのは、自動車用精密プラスチック部品の専門メーカーだった。松浦は、漠然とした成功の予感に昂ぶった。

目標は、小さく薄く、強いこと。しかし何よりフィッティング担当の小岩邦江に認められなければならない。いかに優れた機能を開発しても、トリンプの世界基準、特にフィッティング(つけ心地の精度)の要件を満たさなければ決して採用されないからだ。

モデルの肌と試作品の間に滑り込んだ小岩の指がOKサインを出すまでには、没サンプルが当然のように山になった。

カチカチカチと3段階で寄せられるエンジェル・クリック。遂に誕生した新機能は、緩めればホッとできるという予想外の効果もあって、大ヒットした。

さて松浦は、ブラヘのクレーム No.1を見事解決した男でもある。

ストラップのズレ落ちをなくしたい。企画チームの声に応えようと、彼が毎日手にしたのはゼムクリップだった。

カップとストラップをつなぐパーツが円形であることがズレの原因と見抜き、別の形を模索していたのである。

ほぼベストの三角形に辿り着くと、ジュエリー職人に金属製サンプルを依頼。出来上りを、なで肩の女性を選び試してもらう。小岩のチェックも含め、評判は上々だった。

「いつもは酷評する妻や娘も一発でうなずいてくれました。でもそんな例は、このデルタマジックだけですね」

あくまでも謙虚な才能に、手がけた製品の魅力を尋ねる。
「やはり完成度でしょう」
とことんやった充実感が語らせる答えも、瞳がたたえた輝きも、若い鈴木と同じだった。

あなたのブラの、カップとストラップのジョイントがもし三角形なら、それはトリンプ製だ。(ストラップのズレ落ちが気になったことがおありだろうか)

真っ赤なロゴも見つけて欲しい。それは、従来品を上回るアイデアと品質に胸を張るトリンプの人々の情熱の色だ。次回は、生産工程で品質管理を行う冷静な頭脳をご紹介する予定です。

120年、人間製。トリンプ

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社

2006年5月28日
朝日新聞 広告欄より

http://www.triumphjapan.com/