アメリカ型の社会
庶民の暮らしが大変な状況に追い込まれています。
まず、給料が増えないことが大きい。最近はやっと横ばいの状況とはいえ、地方はまだ落ち込んでいます。
"都心はいい" といっても、いいところは部分的で、良くない人もものすごくいっぱいいます。
さらに問題なのは、給料が増えないのに、給料から引かれるものが増えることです。税金が上がる。社会保険料が上がる。物価があがる。それから、金利が上がりそうです。そうなれば住宅ローンが上がります。
結局、給料から引かれるものはものすごく多いのに、給料は上がらない。可処分所得が減っていきます。
家計の現実を見ると、貯蓄率がどんどん減っています。自己破産の理由では、今は生活が大変で借金して、返せなくて破たんするという方が増えています。
年金生活の方も大変です。政府は年金「改革」の中で、マクロ経済スライドというのを埋めこみました。
今まで物価が上がれば、それに応じて年金も上がっていたものが、これからは物価が上がっても年金はそれに応じてスライドしなくなります。年金が目減りすると不安ですよね。
今、家計がおかれている状況というのは、普通の暮らしをしていた人がずるずると下に落ちていくということです。
格差とか二極化とかいいますが、結局、今まで普通の生活をしていた人がずるずると落ちて、一部の人がどんどん上がっていくということです。
小泉さんは、競争をして、それがいい社会だといっていますが、今、競争をしているのは、同じ力のものが競争をしているわけではないんです。
強いものと弱いものが競争をしているんです。そうした状況では、強いものはより強く、弱いものはより弱くなるのが当たり前。それが格差になって現れてきているんです。
一部の金持ちと、大部分の貧しい人によって構成されるアメリカ型の社会に近づくということです。
小泉さんや竹中さんたちがいうグローバルスタンダードという言葉は、例えば、ライオンのオリも、シマウマのオリも、トラのオリも、ウシのオリもすべて取り払ってしまうことです。
小泉「改革」や規制緩和でもたらされるものは、弱いものはより弱く、強いものはより強くなっていく、そういう政策が推し進められていくということです。
企業の賃金体系が、年功序列から成果主義に変化してきていますね。成果主義のもとで、一部の人の給料だけ上がり、大部分の人の給料がその分だけ減ってしまいます。こういう状況に大部分のサラリーマンが放りこまれてしまいました。
アメリカ型の社会をめざす今の政治に、庶民の暮らしを好転させることなど期待できません。暮らしは、今後もいっそう厳しくなるでしょう。
では、どういう社会がいいのか。私は、アメリカ型の社会ではないと思います。もう一回考え直す必要があります。
荻原 博子「一部の富者と大勢の貧者と」
おぎわら・ひろこ
1954年長野県生まれ。
経済ジャーナリスト。
テレビ、雑誌、新聞などを通して、不況時の生活防衛策や俣険、金融、住宅問題など、実践的な提案を発信。
著書に『破綻寸前!? 国のサイフ 家計のサイフ』『2008年 破綻する家計 生き残る家計』『生命保険は掛け捨てにしなさい!』など
聞き手 山田英明
写真 橋爪拓治