今年は医療崩壊元年か | 月かげの虹

今年は医療崩壊元年か


小児科では若手女性医師が4割、産婦人科では5割です。にもかかわらず、月平均の時間外労働は100時間以上、それに更に加えて、月平均4,5回の当直。その際には、ほとんど仮眠もとれず、2日連続の32時間連続勤務。

このような実態で、女性医師が果たして働き続けることができるでしょうか。結婚や出産、あるいは、体力の衰えを機に、小児科や産婦人科の医師を辞めたり、開業したりする女性医師が増えるのは当然です。

しかし、厚生労働省は女性医師の雇用継続について有効な支援をしてきませんでした。院内保育所の設置や、短時間労働の選択、そして、3交代のシフト制など、やるべきことは多いのに、対策は進んでいません。小児科、産婦人科の医師不足問題は、女性医師問題とさえ言えます。
 
今まで日本の医療は病院の勤務医の方々の献身的な過重な労働基準法を完全に違反した労働により成り立ってきました。しかし、女性医師が増えた今日、そのような「根性主義」では、もう制度が持たないのです。地方の病院が医師不足が原因で閉鎖され、小児科、産婦人科、麻酔科などの医師不足が深刻化しています。

医師は各分野で不足しています。しかし、その実態を表に出せば、医師を増やさねばならなくなります。そうすれば、今回、政府が提出した「医療費抑制」を第一目的とした医療制度改革法案が、成り立たなくなるのです。だから、政府は、最新の実態を出さないのです。

どこの病院でもいいです。病院に行けば、医師不足の実態がわかります。にもかかわらず、全く実態から目をそむけている政府には、医療の未来を語れません。実際、看護師や薬剤師をはじめ、医療従事者すべてが過重労働に苦しんでいます。

そして医師が過酷な医療現場を立ち去ることにより、医療現場がいま、各地で崩壊しているからです。医師が「過重労働だからおかしい」と労働組合をつくって主張するでしょうか? 「労働時間を短くしろ」と要求しても、そもそも医師がいないのですから、無理なのです。それに、「高い給料もらっているし、患者の命を預かっているのだから、過重労働に不平を言うのはおかしい。医師は聖職だ」という批判もあります。

だから、今まで病院の勤務医は大きな声では、自らの労働条件の過酷さを訴えることはしませんでした。病院勤務医の悲鳴はなかなか国会には届いていませんでした。 その結果、過酷な労働はずっと放置されてきました。しかし、もう限界です。いま、病院で起こっているのは、「立ち去り型サボタージュ」別名「逃散(ちょうさん)」と、呼ばれる現象です。

つまり、文句を言っても労働条件は良くならないので、病院を辞める。あるいは、開業医になる。楽な診療科に移る。そもそも医学生が、過酷な労働条件の産婦人科、麻酔科、小児科、へき地などを選ばない。という傾向です。これは、形を変えた勤務医のストライキとも言えるものです。

厚生労働省が、労働基準法違反の現状を黙認している。もし、おかしいと指摘すれば、医師不足が明らかになってしまう。また、何よりも1つの救急病院を労働基準法違反で摘発しても、実は、ほとんどすべての救急病院が、労働基準法違反の実態があり、労働基準法違反を摘発すれば、日本の医療体制が崩壊してしまう。これを黙認している厚生労働省の責任は大きい! 

逆に、病院も正確に労働基準局に労働実態を届け出たら、違反になるので、違反にならないような書類しか出さない。その結果、病院も厚生労働省も過重労働の医師を守ってくれない。それどころか、ますます事態は深刻化し、医師が逃げていく。
医師が逃げれば逃げるほど、残った医師は、過酷な労働を強いられる。こんな医療崩壊スパイラルが、今すごいスピードで進んでいます。

安心してお産ができない国、安心して子どもが医療を受けられない国、地方では十分な医療が受けられない国に、日本はなろうとしている。しかし、その「医療崩壊」の現実をわざと見ようとしない政府。そして、患者や家族も医師への要求はエスカレートするが、病院の勤務医の労働条件の向上にはほとんど関心を示しません。そして、医療訴訟が最近、増えています。小児科や産婦人科を志望する若手医師が減るのも当然かもしれません。

今ここで、救急病院や産婦人科、小児科をはじめとする過酷な病院勤務医の労働条件を改善しないと日本の医療は崩壊します。患者も過労状態の医師からは良い医療を受けることができません。

そして、今、多くの医師が過酷な医療現場から「立ち去ろう」としている時、それを食い止めるのは、医師を増やすこと、開業医や他の診療科から援助を受けることなどのために、多くの予算を集中的に投入せねばならないのです。

すべての医師が過重労働なわけではないです。地域によって、病院によって、診療科によって、また、開業医か勤務医かによって、仕事の大変さと収入に大きな差があります。それをある程度、平均化することが必要ですし可能です。

しかし、そのためには多くの予算が必要になるため、政府は「医療崩壊」を防ぐ具体的な政策を今回の医療制度改革案には盛り込んでいません。今年、この法案が成立すれば、2006年は「医療崩壊元年」として歴史に残るでしょう。