憲法9条2項の意義
マスコミは日本とアメリ力の価値観が「同じだ」とか「共有している」とよく言いますが、まったく違います。
アメリ力は戦争をしている国であり、日本は平和憲法をもつ国です。「価値観がいっしょ」のはずはありません。
私自身、戦地でたたかった人間ですが、戦争になれば、自由や人権ではなく、「勝つために」ということが最高の価値になります。命のような誰もが疑わない価値でさえ、「鴻毛の軽きにおく」のが戦争です。
アメリカは戦争のために、大西洋では英米軍事同盟を100%動員しています。いまイラクで本当の意味でたたかっているのは米英軍です。
太平洋では日米安保条約をどう動員するかが、アメリ力にとっての大問題です。日々報ぜられる基地問題も、米軍と自衛隊の一体的運用も、安保条約をいかに軍事同盟化していくかというアメリ力の基本的な政策から生まれています。
しかし、アーミテージ前国務副長官が言うように日本の憲法9条2項(戦力の不保持・交戦権の否認)をなくさない限り、本格的な軍事同盟化はできません。
憲法9条2項のもとで日本はこの60年間、主権の発動によって外国人を1人も殺していません。
また日本は軍産複合体をつくらず世界第2位の経済大国になりました。これは世界史が知らなかった新しい経済モデルです。
他方、支配政党は解釈改憲で自衛隊をつくり、ついにイラクにまで派遣しました。しかし9条2項があるので、それ以上はできませ
ん。
いまや憲法9条2項の旗はボロボロです。しかし旗竿は皆さんが放していない。それをアメリカとの同盟のために「放せ」と言ってきているわけです。
経済の形も日米で違います。アメリカはたえず「グローバリズム」という言葉を使いますが、この、言葉はもはや経済用語ではなく、アメリカが戦争に勝つうえでの戦略用語です。
そしてアメリカは毎年、「年次改革要望書」で、「郵政を変えろ」「医療制度を変えろ」と迫っている。それに乗って出てきたのが小泉政権の「構造改革」路線であり、いまの「格差社会」、「不安社会」、「不信社会」に結びついています。したがって政府が言っていることには矛盾がいたるところにあります。
たとえば「市場主義」といわれるが、現在、市場は投機のための資本市場となっている。社員がいて、得意先があるなかで、金もうけの人のマーケットに顔を向けながら毎日仕事をしろと言われても、「そんなバカなことがあるか」ということになります。
「規制緩和」にしても、それは権力からの自由ではなく、権力への自由を要求すること、大企業のための規制緩和ではないのか。
こういう状況のなかで私たちは何をすればよいのでしょうか。それはアメリカとは価値観が違うことを前提に、日本の生き方はどうあるべきかを問い直し、日本としてはこの道を選ぶという、次の国家目標を明確にすることです。
その国家目標は憲法9条2項を守り抜けるか抜けないかによって、まったく変わります。守り抜いた場合は、平和憲法を持つ日本として外交や経済を運営することになるのです。
もともと経済は企業社会のものではなく、国民生活のためにあります。いまこそ国民の出番です。
日本が絶対に戦争をしない国だとなれば、まず中国と日本の関係が変わります。日中関係が変わって日米関係が変わらないことはありえません。
憲法9条2項を守ることは世界史的なとりくみです。けっして受け身の仕事ではありません。
きょうは参加させていただき、きわめて有意義な、いい刺激を受けました。私がこれからやろうとしていることにも自信を得ました。子孫のためにもいい国を残したいと思います。
品川 正治
1924年神戸生まれ。日本火災海上(現日本興亜損保)社長・会長、経済同友会専務理事などを歴任。現在、財団法人国際開発センター会長。経済同友会終身幹事。
全国革新懇ニュース
2006.5.5
No. 279