心のエネルギー | 月かげの虹

心のエネルギー


2. ユング派からみた創造ということ

ですから、非常に優れた創造性を持った人のことを、我々が学問的にわかるのかというと、本当はわからないのではないかと思っているのです。

しかしそればかり言っていては仕方ありませんので、一応心理学者としてはものを言っています。

私はC.G.ユングの心理学を勉強してきました。ユングもいろいろなことを言っていますけど、その1つにpsychic energy心のエネルギーというのがあります。このことを彼は大切にしています。

我々は心のエネルギーを使って仕事をしています。確かに物体の動くいろいろな仕事は、本当にエネルギーが動いてなされるわけですが、心の方も心のエネルギーを使っていると思うとよくわかります。

その時に、心のエネルギーを自我が自分の支配下においてどんどん使うように流れている時は、これはprogressionで、エネルギーが進行しているというのです。

それに対して、心のエネルギーが全部regression、つまり退行してしまう時があります。

そのregressionが起こると自我は使えるエネルギーがありませんので、理解に苦しむようなことをしたり、馬鹿なことをしたり、変なことをするというのです。

ここで今私はregressionというのを心のエネルギーのほうに使ったのですが、みなさんご存じのようにregressionというのは「退行」と訳されていて、「年齢的に退行して子どもじみたことをする」それが退行です。

考えてみたら、そういう退行をする時と心的エネルギーが低下しているということは大体パラレルですので、同じ現象をどちらから見て言っているかということになると思います。

regressionというと、どうしてもイコールpathologicalというようにみんな思うのですが、ユングはregressionにはpathologicalなregressionとそうでないのがあると言いたいのです。

ユングによると、pathologicalなregressionはそれが非常に長い間続いて固定化されてしまうようになり、それが困るのですが、むしろ健康で建設的constructiveなregressionは、regressしたそのエネルギーが大量にもう一度progressしてくることが起こるのだというのです。

そのときに、それはイメージと結びついてエネルギーが出てくる場合が多いということです。

つづく

河合隼雄「創造性の秘密」
第51回日本病跡学会 特別講演

日本病跡学会雑誌
No.68 
2004年12月25日発行