育児援助ネットワーク | 月かげの虹

育児援助ネットワーク


それでは、日本の子育て状況をより客観的にみるために、外国と比較してみましょう。

2001年より3年にわたって、筆者を含む総勢15名の国内外の研究メンバーによる研究プロジェクトで、アジアの家族について調査研究を行いました(研究代表者宮坂靖予「アジア諸社会におけるジェンダーの比較研究」科学研究費補助金研究成果報告書、2004)。

これをもとにした育児援助ネットワークの研究を少し紹介したいと思います。まず、調査が行われた中国・韓国・タイ・台湾・シンガポールで子どもを持つ母親はどのような働き方をしているのかについてみておきたいと思います。

年齢別にどれだけの割合の女性が働いているのかという労働力率をみると、中国、タイは出産育児によって仕事をやめず、多くの女性が中高年期まで仕事を継続していることがわかります。

シンガポール、台湾も出産育児によって仕事をやめる人が少なく、少し子どもが大きくなってから徐々に仕事をやめていくようです。

韓国は日本と同様、出産育児のために仕事をやめる女性が多い国です。このように出産育児によって女性が仕事を続けるか否かは各地域で違いがあり、日本は韓国とともに専業母親になる女性が多い国として位置づけられます。

そこで、各地域の育児援助ネットワークがどのようになっているのかをみたものが上の表です。育児援助者を夫、親族、家事労働者、施設というように考え、それらがどれだけ母親にとって効果的であるかということを示したものです。

家事労働者というのは日本ではあまり考えられませんが、メイドさんや子守といった人たちを指します。これをみますと、日本は特に育児援助ネットワークが貧しいところだということがわかります。

夫は仕事で忙しくあまり頼りにならないし、親族に関しても援助を得られる人はラッキーですが、みんなが得られるわけではありません。

保育所は整備されてはいますが、待機児の多いことが問題になっていたり、3歳未満の子どもを持つ専業主婦では、親族や施設保育など育児ネットワークがほとんど機能していません。これに比べて他の地域ではそれぞれ特徴はありますが、複数の育児ネットワークが有効に働いていることがわります。

また、日本で育児援助が得られない背景には強い「母性愛神話」が存在することも見逃せません。

これにより、母親はみずから母親役割に縛りつけることになり、他方、母親以外の人も「母親がするべき」という考え方を強いたり、夫の子育ての当事者としての役割意識を弱めたり、はたまた母親以外の人や施設に援助ネットワークを広げていくことを妨げていくことにもつながっていきます。

日本は産業化する以前は子育ては家族の中に閉じこめられたものでなかったと先に述べましたが、社会の変化とともに子育てに専念する専業母親が増加し、育児援助ネットワークは消失していきました。

そして、それに代わる援助体制が再構築されていないというのが日本の現在の状況であると考えられます。

華頂短期大学
斧出節子「子育てとメンタルヘルス」

財団法人 日本精神衛生会
こころの健康 シリーズIII
メンタルヘルスと家族

2005年10月20日発行の小冊子より