役者・奈良岡朋子
1989年にジェシカ・ダンディの主演で映画になり、話題になった作品である。05年の9月に能登で初日を開け、先日の東京公演を経て、2月末までの旅公演が続く。
プライドの高い未亡人・デイジーと黒人の運転手・ホークの25年間にわたる物語である。人種差別の激しいアメリカで黒人を寄せ付けもしないほどプライドの高いデイジーが、いつしかホークなしでは生きていられなくなる。大人のラブ・ストーリーだ。
デイジーが奈良岡朋子。ホークが仲代達矢。新劇界の大御所が、舞台での初共演である。2人が今まで同じ舞台を踏んでいなかったというのはいささか驚いたが、ほとんど二人芝居のこの舞台、奈良岡朋子という女優のしたたかなまでの巧さと、女優としての鬼気迫るとも言うべき演技を観た。
彼女の巧さは今さら改めて注釈するまでもなく世間の認めるところだが、ふとした表情や仕草、科白の間に、瀧澤 修や字野重吉から吸収した演技のエッセンスを感じた。
そして、それを土台に自分で工夫に工夫を重ね「役になる」ことの追求。実に細かいところまでを計算し、それをあざとくなく自然な演技として見せるところにこの人の魅力がある。
この芝居で言えば、老婆になってからの仕草が実に巧みだ。歩き方やしゃべり方は誰でも工夫はするが、彼女はもう一段上を行く。老人特有の不随意運動が織り交ぜられていて、気が付かなければそれで見過ごす程度のものだ。しかし、そこが彼女の役者としての魂なのである。
初共演の仲代達矢とまさにつばぜり合いのような芝居をしている。名だたる名優同士、そこに勝敗はない。ただ、ひたすらに芸の道を歩んできた二人の、自己満足ではない、誇らかな充実感があった。こういうのを名舞台と言うのだ。
何より嬉しいのは、彼女が仲代とともにほぼ全国、この舞台を半年かけて上演してくれることだ。すでに再演を楽しみにしている、と、言ったら、彼女に酷だろうか。
中村義裕「どうしても書きたい役者」
百人百役 その33
~私が惚れた役者たち~
奈良岡朋子
「ドライビング・ミス・デイジー」のミス・デイジー
大塚薬報 2005年12月号
No.611
大塚製薬工場