高校生活とアルバイト
アルバイトをする高校生が近年増えている。中にはスーパーや飲食店などで、夜遅くまで「働く」高校生の姿も。
社会勉強のメリットを指摘する声がある一方で、授業や部活など、学校生活への悪影響も言われる。その実態と背景は……。高校生のアルバイト事情をリポートする。
県内の多くの高校は親の承認の上、学校に申請すればアルバイトを認める許可制を採る。ただ、これが守られているとは言い難いようだ。データはないが、「ここ数年、バイトする生徒が増えてきている」と話す教員は多い。
ある高校では「クラスの七割がバイトをしている」という。高知市内の公立高2年の女子生徒、Aさん(17)はスーパーでアルバイトをしている。週四回、午後5時半から9時半まで働く。
ある日のAさん。午後4時前、学校が終わると急いで帰宅。カバンを置くとすぐに自転車でバイト先へ向かった。バイト先では商品の入った重い段ボールを倉庫から売り場へ運び、商品を陳列するなど、広い店内を動き回った。
いつも通り午後9時半まで働き、店の片付けが終わって10時ごろにようやく家路に就いた。遅い夕食のあと風呂に入り、自分の部屋でゆっくりするころには11時を過ぎる。
Aさんがバイトを始めるようになったきっかけは携帯電話。「携帯を持つなら自分でお金を払う」という親との約束で、1年生の夏ごろから始めた。今では月に4万~5万円を稼ぎ、携帯代や衣服代などに使う。
携帯代を理由にバイトを始める高校生は多いようで、ある教員は「うちの学校でバイトしゆう生徒は、ほとんど携帯代」。高校生の月々の携帯代は1万~1万5千円が多いようだが、親からもらう小遣いは3千円~1万円程度。足りない分はバイトで補うという実態が見えてくる。
加えて高校生の周りには、カラオケやゲームセンター、服やアクセサリーなど、さまざまな魅力的「商品」がある。消費社会の中に組み込まれた高校生が、流行の商品欲しさにバイトを始めるケースも多い。
接客や上司とのコミュニケーションを通じ、人間的に成長できる場としてアルバイトを歓迎する声もある。「バイトを続けることで、自分の言動に責任を持つようになった」と話すのは、生徒指導を担当する教員。自らの学費や生活費を稼ぐ高校生もいる。
雇用する企業側にしても、夕方から夜の時間帯に安定した人手を確保できるメリットがある。あるスーパーの人事担当者は「主婦パートが少ない時間帯に、高校生は必要不可欠。
友人や後輩を紹介してもらうことで、継続性があるのも大きい」と説明する。
半面、アルバイトによる学校生活への負の影響も少なくない。「先生、早う終わってくれな、バイト間に合わんき」。ある公立高校の終わりのホームで、生徒が声を上げた。
学校が終わると一目散にバイト先へ向かう生徒たち。ある教員は「授業よりもバイトという空気がある」と話す。「放課後の指導は、生徒に前もって『予約』しておかないと不可能」と嘆く教員もいる。
部活動に支障が出るケースもある。「きょうバイトやき、部活休むきね」。休んだのはチーム競技の中心的役割を担う生徒。練習のレベルは下げざるをえなかった。
学習への影響も深刻だ。ある公立高校は、1日に1人は「バイト疲れ」で保健室を訪れる生徒がいる。ぐったりとした様子でやって来た生徒は「今週休みがなかった」「昨日、夜遅かった」と言って寝ていく。
別の高校では、遅刻して2時間目から登校する生徒もいる。中には、体調が悪いと学校を早退してでもアルバイトに備える生徒もいるという。
「社会が高校生のバイトを受け入れる構造になっている」。高知東高校の森暁校長はこう指摘し、「部活や家庭の時間に取って代わり、バイトが『主』になっている生徒も多い。『高校生』としての優先順位を忘れず、今の貴重な時間を大切にしてほしい」と注文をつける。
消費社会の中で、携帯代の支払いや流行の商品欲しさに増加する高校生アルバイト。雇用する側にとっても、必要不可欠な存在になっている。
バイトのメリット、デメリットを学園生活の中にどう位置付けるのか。重い問い掛けだ。
2006年3月19日付け
高知新聞朝刊
教育特集 すぽっとこうち
(社会部・宮本晋之)