キューバに感謝! | 月かげの虹

キューバに感謝!


高校を卒業して間もなく、ギターの最高峰ともいわれる「ハバナ国際ギターコンクール」に出場することになった私は、あわててキューバについて集められる限りの情報を探しに本屋さんへ駆け込んだ思い出がある。

何しろその頃の私は「キューバってどこ?」というくらい、何の知識もなかったのだ。かくして諸準備をし、20歳を迎えた私はいよいよコンクールにエントリーするためにキューバヘ旅立った。

忘れもしない、その時留学していたパリは朝5時。だいだい外はまだ霧に包まれていた。橙色の街頭を通り抜け、シャルル・ド・ゴール空港へと向かった。そして、スペインはバルセロナ経由でキューバのホセ・マルティ空港へと向かった。

そこは自分にとって未開の土地。「もしかしたら帰って来られなくなるかもしれない……」と少々大袈裟ながら、パリのアパルトマンには遺言にも似た親への置き手紙を残していた。

今となっては笑い話だが、当時はこれから起こる何かに足を踏んばって、真剣に対時しようと必死だったのだろう。

キューバはカリブ海に浮かぶ島。機内の窓から眺めると快晴の空よりも青い海のなかに亜熱帯の緑と赤茶色の土壌をもった景色が少しずつ近づいてきて、着陸と同時に自分もその風景のなかに混ざってゆく。

空港では人の代わりに、27度を超す熱風と身体を包むような湿気、この国特有の何か挨っぽい軽油の香りが混ざつた、しかしなぜか懐かしいにおいが出迎えてくれた。

おんぼろタクシーに乗ってコンクール会場へ。そこでやっとパスポートをチェックするお役人さん以外のキューバの人に接することになる。

「何とフレンドリーな人たちだろう ! 」。その絵に描いたような "屈託のない笑顔" をする彼らといると、それまで不安を抱えていた自分に笑顔が取り戻されてゆく過程が実感できる。

その瞬間から、この国に生きる人が奏でる音楽への興趣が増していった。キューバのミュージシャンとも一緒にCDの録音をし、友達もできた。

いつの間にかキューバ行きも7回を数えるほどになっていたのは自然なことだったのかもしれない。

キューバでの音楽見聞はプロフィールに載せるためのキャリアだけではなく、音楽に対する「親しみ」を「享受」したと実感させてくれた。

そして私の聴覚に「キューバ音楽」をしっかりと馴染ませてくれた、今は亡きブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのリーダー的存在、コンパイ・セグンドヘのオマージュ的意味もグ含めて、『Gracias Compay』というCDタイトルのごとく「有難う! キューバ!! 」と言いたい.

大萩 康司「キューバに感謝!」
おおはぎ やすじ
ギタリスト
1978年宮城県生まれ
高校卒業後、渡仏。パリエコールノルマルに留学後、パリ国立高等音楽院に入学。約6年間パリに滞在。98年、ギターの国際コンクールとして世界最高峰とされる「ハバナ国際ギターコンクール」にて、第2位入賞。同時に審査員特別賞(レオ・ブローウェル賞)を獲得。2005年5月にはキューバ政府より招聘され、キューバ最大の音楽祭「クバディスコ2005」に出演。6月にはアルバム『ハバナ』、10月にはDVD『鐘のなるキューバの風景』をリリース。

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