フォアグラのたたり
私は、若いころは油ものも肉も好きであったが、最近は年のせいか、和食中心の食生活になっている。
3年前に初めて半日ドックに行って、高脂血症、高尿酸血症、肝臓の嚢胞、胆石などを指摘されており、数年前から高血圧も加わったので、立派な "歩く生活習慣病" である。
年に数回、海外でのシンポジウムや学会に出席する。海外での食事は、夜は主に日本食である。特に海外のシンポジウムでよく一緒になるF先生と同席した時には、確実に日本食になる。
F先生は、現地に到着するとまず日本食レストランを探して、夜だけでなく昼も日本食を食べるという徹底した日本食主義者である。
私はそれほどではないが、米国、イギリス、ドイツなどにはあまり美味しいものがないので、消極的日本食主義者といったところである。
とにかくこの15年あまりの間、2人でワシントン、ボストン、パリ、プラハ、フィレンツェ、ローマ、ストックホルム、イーテボリ、バロセロナなど、かなりの都市の日本食レストランを食べ歩いた。
唯一、マルタ島には日本食レストランがなくて、中華レストランを選んだ。やはり、あまり美味しくはなかった。
日本食レストランといっても、必ずしも日本人が経営しているわけではなく、中国人や韓国人の場合もあり、そういうところでは、食べ物に少し違和感がある。
特にヨーロッパ人が寿司を握っていた店は、美味しくなかった。そろそろ2人で日本食レストランのガイドブックをつくろうかという勢いである。
2005年9月に、リヨンで行われた小児内分泌学会連合学術集会に出席した。1日目はいつもどおり日本食レストランに行ったが、2日日はPaul Bocuseで開かれた晩餐会に招かれ、3つ星レストランなら行かねばなるまいと出かけた。
味はとりわけ美味しいというほどではなかったが、それだけで満腹になりそうな大きなフォアグラが出された。もともと嫌いではないので全部平らげ、白身魚のソテーなど、お腹がいっぱいになるほど食べた。
そして、とびきり美味しい赤ワインを味わって満足した。また次の日も、フランス料理でフォアグラを食べ、赤ワインを楽しんだ。
ところが、その日の夜から、猛烈な腹痛に襲われた。これは胆石だと直感したが、とにかく痛い。夜中じゅう七転八倒して、明け方にやっと痛みがおさまった。
次の日も時々腹痛に見舞われ、ほとんど食べられない状態で過ごし、その翌日に這々の体で日本に帰ってきた。
そのころには、もう痛みもケロッとおさまり、病院でMRIをとってみたものの、胆石は前と同じ状態で変わりなしとのこと。
やはり海外に行っても、日本人は和食に限る。フォアグラは、こりごりだ。
後日談 : 12月に焼き鳥のレバーを食べて、また発作を起こし、2006年1月に遂に手術とあいなった。(入院中の虎の門病院で追記)
田中 敏章「和食党宣言」
国立成育医療センター臨床検査部長
薬の知識 3月号
味な話
March 2006 Vol.57 No.3
ライフサイエンス出版
マンガ:夏目房之介