電子頭脳 | 月かげの虹

電子頭脳


「必要は発明の母」は西欧から入ったことわざの一つだが、必要を「戦争」と言い換えた言葉も広く知られているように、戦争での必要性から生まれた技術は少なくない。

現代社会になくてはならないコンピューターもその一つ。開発が始まったのは第二次世界大戦中の米国だ。砲撃の際の命中精度を上げるため、正確な弾道を素早く計算する必要があったからだという。大戦終結までには完成しなかったが、水爆実験のシミュレーションに使われ、戦争という枠の中で役目を果たしている。

その後の飛躍的な技術の進歩によって、かつての電子計算機の面影はいまやなくなっている。中国語の「電脳」と同じように、1960年代ごろまで呼ばれていたという「電子頭脳」がぴったりするのが現状だろう。

コンピューターは戦争の様相を変える一方で、その技術は社会の隅々にまで浸透した。日常生活での恩恵の大きさは計り知れない。もっとも、技術に精通した人たちを除けば、十分に使いこなせているとは言い難い。むしろ、振り回されている感じさえする。

自衛隊や各地の警察などで相次ぐ情報流出はその一例だろう。外部に絶対に出てはならない極秘情報が次々に漏れている。むろん、問題のソフトが悪いわけではない。自分は大丈夫、といった勝手な思いこみが、危機意識を薄れさせているに違いない。

コンピューター化の流れは今後も加速していくはず。便利な道具も使いようによっては凶器に化ける、というのは昔からの戒めだ。

2006年3月9日付け
高知新聞朝刊 
コラム「小社会」より