さて今回はガネーシャ神誕生のお話です。
前回「女神信仰」の回で、シヴァとパールヴァティーが世界戦争を起こしかけたというお話をご紹介したのですが、実はこのお話がガネーシャ神の誕生に関係しているのです。
ガネーシャとは象の頭をした、繁栄をもたらし、智恵を授け、あらゆる障害を取り除いてくれるという、ありがたーい神様です。
これはあまりに有名な話なのですが、神様の豪快さとムチャクチャさがよくあらわれていて面白い話だなと思うのでご紹介します。
・・・
シヴァの奥さんであるパールヴァティーは常日頃から自分の従者が欲しいと思っていました。
召使いはいるものの全て夫であるシヴァの従者であるため、パールヴァティーは二の次扱い。
自分のことを第一に考えてくれる従者を求めているのでした。
そんなある日、シヴァが長い旅に出ている時の出来事。
パールヴァティーは暇つぶしからタオルで自分の身体をゴーシゴシ。
大量の垢を出し、それを香油で練り上げて人形を作ってみたのでした。
…それにしても大量に垢がでるものです。
この垢すりタオルからヒントを得て作られたのが韓国の垢すりタオルだとか。
そんな本当のような嘘の話はさておき…あまりの良い出来に、パールヴァティーはその人形に生命の息吹を吹き込んだのです。
動き出した少年はなかなかの美少年
あら可愛いと、すっかり少年を気に入ったパールヴァティーは少年を息子にします。
さっそく自分のいう事だけを聞いてくれる可愛い息子に最初の指示を与えました。
「これから私はお風呂に入ります。その間、門番をして誰も入れないでちょうだいね。」
ちょうどその時、長く留守にしていたシヴァが我が家に帰宅します。
「Home,sweet home」
神様なので長旅でも疲れませんが、とにかく早く家に入って愛する神妃に会いたい。
ふと門前を見ると、見たことのない少年が家の前に立っていることに気づきます。
シヴァがその横を素通りして家に入ろうとすると少年がシヴァの行く手を妨げます。
シヴァ「どけ」
少年「いやだ」
シヴァ「どけ」
少年「ことわる」
シヴァ「…」ブッチーン←何かが切れる音
シヴァ「ここはオレのうちじゃぁ!どかんかいっっ!!このボケカス!!」
と、言ったかどうかは定かでありませんが、騒ぎを聞きつけたシヴァの従者たちと少年の闘いが始まりました。
従者たちも神様ですが、この少年めっぽう強い。
少年はとびかかってくる神様を千切っては投げ、千切っては投げ、従者が束でかかっても全く歯が立ちません。
少年が神様達を投げ飛ばす衝撃で天界が崩壊し始めました。
騒ぎを知って他の神々も駆けつけ、天界あげての大戦争がはじまりました。
しかも一人の少年VS神々ですから、神様も立つ瀬がありません。
大人みんなでなんとか少年を取り押さえようとするも、敵もあっぱれなもので全くちょこまかと逃げ回り全く捕まえられません。
次第に年齢差が災いし始め、神々の息があがり動きが鈍くなってきました。
そんな騒ぎを静観していたヴィシュヌ神。
一瞬のスキをついて得意の幻術を少年にかけ惑わしました。
ヴィシュヌっていっつも冷静で、チャンスを見逃しません。
動きが鈍くなったところでやはり静観していたシヴァ神が一太刀っ。
無敵の雷の剣でズバーッと少年の首を切り落とすのです。
ズシャッ。チーン。
シヴァ「またつまらんものを斬ってしまった。」
やりました。神々軍の勝利です。大の男たちが涙を流して抱き合い、喜びを分かち合っています。
「えいえいおー!」と神々が勝利の勝どきをあげているその時、ゴゴゴと家の方から暗雲が広がり始めました。
一同が家の入口に目をやると、視線の先にはシヴァの神妃、パールヴァティが顔を黒くし、眼から血を流さんばかりの形相で立っています。
パールヴァティ「あぬぁたぁぁぁ」
シヴァ「お…おまえ…どうしたんだい?」
パールヴァティ「よくも私たちの子供を殺したわね。」
シヴァ「子供?誰の子供だって?誰のことだい?」
パールヴァティ「あんたがさっき首を斬ったあの子のことよ。」
一同絶句です。
怒ったパールヴァティの怖さは全ての神が知っています。
怒り心頭のパールヴァティは怪物を生み出してシヴァにけしかけようとしました。
怪物を天界に持ち込まれては他の神々もたまったもんではありません。
壮絶な夫婦喧嘩です。
遠巻きに様子を見ていたブラフマを見つけた神様達は、なんとか仲裁に入ってくれるようブラフマに頼みました。
しぶしぶ重い腰をあげ、恐る恐る間に入ったブラフマは言いました。
ブラフマ「まぁまぁ奥さん。…ここは老い先短い年寄りの顔に免じて、なんとか赦してもらえんもんじゃろか。」
パールヴァティ「どきなさい!!」
ブラフマ「ひいいっっ!!」
パールヴァティ「あの子を生き返らせない限り絶っっ対に赦さないわよ!!」
神々は慌てて四方に散らばり少年の頭を探すのですが、どこかに飛んで行ってしまい二度と見つけ出すことは出来ませんでした。
首がなければ生き返らせることは出来ません。
そこでブラフマが一計を案じました。
ブラフマ「シヴァよ。今から北に向かって進み、最初に出会った動物の首を持ってくるのじゃ。」
言われた通り、シヴァが北に向かうとまず最初に出会ったのが象でした。
シヴァがブラフマに象の頭を渡すと、ブラフマはそれを少年の身体にのせてくっつけてしまいました。
ブラフマ「ど、どうかな奥さん…」
パールヴァティ「…何よコレ!!」
一同「ひいいっっ!!」
パールヴァティ「…可愛いじゃない!!」
こうして身体が少年、頭が大きな象のガネーシャが誕生したのでした。
恐妻家で知られるシヴァ一家の全ての神々を巻き込んだ大騒動のお話でした。
とっぴんぱらりのぷう!