世間知らずの記憶 | 横浜フロンティアのブログ

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昨日、20年近く前に卒業した短大のあった場所を訪れた。

その短大は、10年前に四大に統合され、その後廃止され、

四大のある学部に変わったことは知っていたが、

建物自体がどうなっているのかは知らなかった。

最寄駅は自宅から電車で30分ほどなので、行こうと思えばいつでも見に行くことはできた。

今までその機会はなかったのだが、昨日の夜遅く、

親戚の家からの帰りにその駅へ向かう途中でふと寄ってみたくなった。


その場所までは、歩いて15分ほどのはずだった。

いや、実際その程度しかかからなかったはずだが、

久しぶりに歩いたからか、ずっと長く感じた。

初めての場所へ行く時に、行き先が遠く感じるのと同じ感覚なのかも知れない。

海沿いの道を歩きながら、私は学生時代の自分を思い返した。



私は極度の世間知らずだった。

その短大を受験した理由は、試験が英語と面接しかなかったからだ。

当時から私は、自分が好きなもの以外には見向きもしない性格で、

大好きな英語以外の教科は、一夜漬けで乗り切ってきた。

学校の試験ではそれでなんとかなったたが、

大学入試ではそうはいかないだろう。

だから私には四大を受けるという選択肢はなかった。


もし私が英語を好きでなかったら、高校を出た後何をしていたか想像はつかない。

好きでもないことを必死でするくらいなら、

就職しなくていいから好きなことだけをしていたかった。

就職試験を受ける友達を見ながら、「一般事務って何?それってそんなに楽しいの?」

と不思議がっていたほど、私は世間を知らなかった。



就職活動などしたことはなかった。

英文科に入って、英語と関係ない仕事を探す人の気持ちはわからなかった。

また、当時は英語を使った仕事をする自信などなかった。

短大を出た後、社会人になることに抵抗のあった私は、

四大でいう大学院のようなところへ進んだ。

そこは大好きな英語だけを勉強していられる場所だった。

その後は、学習塾でのバイトを続けた。

よくわからない「一般事務」というような仕事をするよりも、

今そこにいる自分の生徒に好きな英語を教える仕事を続けたかったからだ。

私はこうして、世間知らずに加えて物事を長いスパンで考える能力がなく、

ただ一瞬を生きてきた。



今私は、たまたま仕事で英語を使っている。そしてたまたま正社員である。

この仕事についてまだ5年ほどで、正社員になってからまだ3年経っていない。

短大生の頃は、英語を使って仕事をする能力なんて自分にはないと思っていたから、

そんな選択肢はなかった。でも、そんなことはやればできてしまうものだった。


学生時代に好きなことしかしないと、その時は楽しくても人生の選択肢を狭くする。

私は今、普通なら入社数年目の20代の人間がぶつかるような問題にぶつかっている。

人よりも10年以上遅れた人生。給料も大学の新卒者と同程度だ。

いや、それ以下かも知れない。

きっと、若い頃楽をしてきた人は、後になって苦労するようにできているのだろう。

英語しかやってこなかったせいで、今でも一般常識を知らない。

「もっと勉強して四大を出て就職していればよかった」と思わないでもない。

でも、自分で選んだ人生に後悔はない。

どちらにしても、好きなことをする人生に変わりはないだろうから。



そんなことを考えながら橋を渡り、突きあたりを右に曲がると、

そこには10年前まで短大だったその建物が、当時のまま残っていた。

私は正門をのぞき込み、守衛に怪しまれるのが恥ずかしくて、そのまま引き返した。


Holly