
今年の8月も残り5日となり、ここ数日の雨降りで季節は秋めいた感じがします。
7月下旬から8月上旬に開催されたシンガポール国際武術大会も、何かしら遠い思い出のように感じます。
私たちの活動では、2011年に上海体育学院武術学院で研修、2012年に上海国際武術博覧会、2013年に香港国際武術大会、
そして2014年に復旦大学武術協会、上海市自由貿易試験区内にある龍身蛇形太極拳総部にて研修を受け、今年2015年は先ほど行われたシンガポール国際武術大会に出場しました。
帰国後は出場された皆さんも自信がついて来月の交流会に向けて準備が始まっています。
ようやくここで現在の活動でコアになっている皆さんには、私自身が生きてきた武術世界の現代版を知って本場の「中国武術界」を実感して、自信を持ってもらえたことが非常に嬉しく思っています。
そうすることで、本場中国の大らかさと、ひたむきさ、武術文化を嗜み、活動を行うことで日本にいながら中国と同じような感覚でグレードアップを図る「練功」ができると思います。
何故にそうしてきたのかは、やはり「郷に入れば郷に従え」的に日本人は中国でも適応できるので、一緒に生活の中で武術を感じれば、中国武術界の本当の魅力に気付いてもらえると思ったからです。
そして私の30年間の往来で感じる本場の「中国武術」と日本で行われている「中国武術的なもの」とは「全く異なるもの」と言っていいと思います。
それは当然武術に嗜んでいる人でも「中国」を知らない、あるいは行っても通訳がいてほとんど観光ツアーになっているものしか知らない人がほとんどだと思います。
私たちは研修の中でも、できる人は中国語を勉強してもらって、直接の会話や生活も一緒にするようにしています。
そうすることで本物の中国を知り、中国人の皆さんを知り、そして中国武術を理解していく、ことを大事にしています。
そして自身の学び得た武芸の能力は先ず「中国」の大会で評価を取ってもらうようにしています。
そうすることで中国武術とは何か、評価される技芸はどういうものか、交流とはどういう世界か、を感じてもらうことで悠久の長い歴史の中で育まれた「武術世界」を理解してもらって活動に活かしていくようにしました。
それから日本国内の多くの中国武術系の世界を見てもらうようにすることで、私自身が普段からお話ししていることの意味が解ってもらえると思います。
特に一番異なるのは「競技会」の質だと感じています。
形式や見た目はほとんどは似ていますが、質の中でも「本質」は全く違うもののように思います。
こうすると常に「嫌味を言っている」とか「批判をしている」と簡単に受け取られがちなのですが、私自身の日本国内の競技会は1984年に行われた第1回から2001年まで携わり、そのプロセスを見て来た結果において、
日本で「中国武術」の活動においては全くの別行動でやるしかない、と国内組織の構造や内部のシステムを考えたうえでアクションを開始しました。
私の教え子たちも国際大会を経験することで、知ってもらえたことは「評価内容に納得がいく」「今後、更に練習に励みたくなる」というもので、
ここが一番重要だと思います。
私が1986年に学んだ徐淑貞老師や何福生老師は当時中国国内で一番高いレベルの競技会の審判長を務めていて、中国国内の武術大会の審判でのお話しをよく聞かせてくれました。
私自身は若年時代に経験したことですが、私は当時若くとも年上の人よりも既にキャリアがあり、中国で学んでいて、後に後輩たちが審判業務をするようになり、
そこで、今でも本質的なところで「国内競技で問題がある」と思うのは、
武術の大会も「減点方式で10点満点から採点される」と大体は理解されていると思いますが、
常に「減点」「減点」という意識が現代日本人には根幹にあるようで、
「あの動作は減点」だ、これは微妙だ、これはまぁよく行っている、そんなやりとりをよく聞きました。
私はその時その会話の中へ入り「武術は、そんな点数の付け方ではない。そんな考え方だと点数結果がおかしくなる」
咄嗟に直感で「これではミスが出るのをあら捜しを皆で行うようになる・・」
そして同時に、
「そうした点数の付け方では、自分の競技に自信を失い辞める人が多く出ることだろう」
そして感じたのは「この人達は、自分達が解っていないことに、気付いていない」そう思ったからでした・・・

2002年の上海国際武術博覧会の組織委員になり、2年に1度開催される国際大会に2012年まで10年間、上海での武術活動に携わって来ました。
その中には恩師の花妙林老師、安徽省武術隊の範燕美さんが総審判長、陸松庭くんが中国の全国大会の副審判長を務めるようになりました。
大会が終わってから、審判業務について、いろいろとお話しを伺うと勉強になることが沢山ありました。
中国の武術大会の審判員になるにはとても大変で、各省の武術隊や武術学校出身で、中国国内の体育学院や大学での武術専門教程を経て、審判員の資格試験を受けて合格し(武術技能の低い人はいない)
審判になっても、武術技能を保持することは当然のことで、選手から質問を受けたらすぐに動作を行って解説するのは義務で(最近はビデオカメラでチェックします)
採点は、ただ減点することが目的なのではなく、総合的判断が求められる大変高度な仕事で、
選手、コーチなどが理解して納得のいける結果を導くこと審判の仕事だ、と仰っていました。
そして入場行進と整列や包拳礼を行う姿勢や動きに、武術技能の保持が表れていなければ現場に出られる資格はない、というのは納得がいきます。
今回のシンガポール大会でも競技会の始まる前の審判団の入場行進は颯爽としていて心地良く、審判デビューした韋剣くんもとても凛々しかったです。
そして久しぶりにお会いした賈平さんとの同期の張作川さんや、小さかった張亜涼さんも審判姿がよく似合っていました。
大会総審判長だった憧れの周樹生老師から激励と、年配になるまでの功法のアドバイスを頂き本当に感激をしました。
今年は何か大きな節目の年になった気がします。
まだしばらくは、中国での国際大会にこだわり、2020年の東京五輪で武術が追加項目に入れて、今から5年後に大会が行われた時、
日本で初めて国際武術連合会の審判が業務を担当すると思いますが、
その時にようやく多くが知ることになり、そこから武術の発展が始まると思います。
