「韓非子」(かんぴし)は、中国戦国時代の法家である韓非の書。内容は春秋・戦国時代の思想・社会の集大成と分析とも言えるものである。

簡法禁而務謀慮、荒封内而恃交援者、可亡也

王が法律を軽んじてはかりごとにばかり関心があり、国内を荒れさせる一方で友好国をあてにしているような状況は危ない。


群臣為学、門子好弁、商賈外積、小民右杖者、可亡也

家臣たちが(誤った)学問を行い、家臣の子弟が口のうまさばかりよしとし、商人が外国に蓄えを持ち、下々の者が、上に頼るばかりなのは危ない。


好宮室台榭陂池、事車服器玩好、罷露百姓、煎靡貨財者、可亡也

王が建物や器物に凝って人を使い富を浪費するのは危ない。


緩心而無成、柔茹而寡断、好悪無決、而無所定立者、可亡也

王が志に欠け、決断力がなく、(政治を行うに)確固とした方針がないのは危ない。

恃交援而簡近隣、怙強大之救而侮所迫之国者、可亡也

友好国をあてにして近くの他国を軽んじ、(自国より強大な)他国が助けてくれるとたかをくくって自国を圧迫してくる国を気にとめないような場合は危ない。


羈旅僑士、重帑在外、上間謀計、下与民事者、可亡也

外国の出で、しかも家族などが外国にあるような者が政治に広くたずさわるのは危ない。


婢妾之言聴、愛玩之知用、外内悲惋、而数行不法者、可亡也

王が個人的にかわいがっている者たちの言うことが政治に用いられ、国には悲しみ怨む者が多く、王がしばしば不法を行う状況は危ない。


簡侮大臣、無礼父兄、労苦百姓、殺戮不辜者、可亡也

家臣を馬鹿にし、親族に礼を用いず、民を苦しめ、罪のない者を殺す、そのような人が王であると危ない。

主多怒而好用兵、簡本教而軽戦攻者、可亡也

王が怒りにまかせてすぐ戦に走り、農業や練兵を顧みず軽々しく他国を攻めるのは危ない。


貴臣相妬、大臣隆盛、外藉敵国、内困百姓、以攻怨讎、而人主弗誅者、可亡也

高位の家臣の仲が悪く、大臣が権力を持ち、外国の力を借り、民を苦しめて、互いに争っているのに、王がそれを処罰できない状況は危ない。


大臣甚貴、偏党衆強、壅塞主断而重、擅国者、可亡也

大臣の力が強く、またそれに従う徒党が多く、王が正しい判断をできないようにしてしかも権威を持ち国を思うままに動かすような状況は危ない。


公家虚而大臣実、正戸貧而寄寓富、耕戦之士困、末作之民利者、可亡也

王家の倉は空で大臣の家の倉は満ち、もとからいる民は貧しく外から来た者は富み、耕作に励み戦では命をかける(本来たたえられるべき)者は生活が苦しいのに、(商工業など)大したことのないなりわいの者が潤うのは危ない。


辞弁而不法、心知而無術、主多能而不以法度従事者、可亡也

王が能弁で賢く何でもできるが法術(=形式的なとりきめを守らせることで秩序を実現すること)を無視するようば場合は危ない。