人知れず咲く、サボテンの花は
困難な状況にも耐え忍び、愛や、感情を長続きさせる、力強さや、忍耐力を象徴する花言葉で、唯一ボクサーに似合う花。である。
これは、横浜さくらボクシングジムのサボテンの花達の物語である。」
タイマーがブーと鳴った。
「ストップ」会長が「武」のスパーリングを止めた。
インターバルの30秒が終わり再びタイマーが鳴った。
会長は、「3ラウンド目、ラスト」と言ってから「ボックス」とコールしてスパーリングを再開させた。
練習が終わり、事務所で息抜きをしていると
ジム仲間であった彼女が「武」がいつも愛用していたマグカップを私のカップと交換してくれませんかと言った。
彼女にとってリングで輝く「武」は憧れの存在であった。
備前焼の見た目綺麗ではないが、使い込んだ陶芸作家藤原啓のカップで、それなりの趣があり愛着はあったが、「いいよ」と交換に応じた。
事務所に自由に飲めるインスタントコーヒーが置いてあった。とは言え利用しているのはそれなりにキャリアのあるボクサー達であった。
「武」はそれからは交換した、マグカップでコーヒーを楽しんだ。
ウエッジウッドのカップは薄いブルーに人物や風景を浮かし彫りしてあり、欲しかったカップ容器の一つであった。
彼女は、その後結婚してジムから姿を消した。
涼しい目をした可愛い娘だった。
そして時は流れた。
知人の陶芸店に
備前焼の取手の壊れたコーヒーカップを持ち込んで
「とても大切な思い出のカップなんです、修理できませんか」と持ち込んだ女性がいた。
「武」が陶器に興味を持っていることを知る店主は事情を話して修理したカップを見せた。
陶芸作家が作った備前焼は、それぞれ個性があり、窯の火力などの具合によっても出来上がりの風景が変わる。
「武」はその修理されたマグカップを見て、自分が使っていたものだと確信した
そしてカップの下に藤原啓の号をみつけ、「やっぱりそうか」。懐かしい恋人に再開した様な感動を覚えた。
今もカップにこだわっている、彼女の思いに、
幸せに暮らしているのだろうか、そうであればいいのだけれどと、何故だか勝手に余計な事を想像して胸が熱くなった、そして今の彼女に会ってみたい衝動に駆られた。