荒地の家族


佐藤 厚志




あの災厄から十年余り。男はその地を彷徨い続けた。

仙台在住の書店員作家が描く、止むことのない渇きと痛み。

第168回 芥川賞受賞作


海の膨張で造園業を営む男は独立したばかりの仕事道具や車を失ってしまった

彼だけではない、全てを奪われて人達が多勢いる


馴染みの店、商店街、全ての世界が、人が作り上げた物を一瞬で奪いさった


元に戻りたいと人が言う時の「元」とはいつの時点か

十年前か。二十年前か。一人ひとりの「元」はそれぞれ時代も場所も違い、一番平穏だった感情を取り戻したいと願う。


道路ができる。橋ができる。建物が建つ。人が生活をする。

それらが一度ひっくり返されたら元通りになどなりようがなかった。

やがてまた必ず足元が揺れて傾く時がくる。

海が膨張して押し寄せてくる。

この土地に組み込まれるようにしてある天災がたとえ起こらなかったとしても、時間は一方的にのみ流れ、一見停止しているように見える光景も絶え間なく興亡を繰り返し、めまぐるしく動き続けている。

人が住み、出ていく。生まれ、死んでいく。


怒ったり、悲しんだりしたところでどうにもならない

災厄が耐えがたいほどに多すぎて、右にも左にもいかず、ただ立ち尽くすほかない日が続いた。

穴があった。どれだけ土をかぶせてもその穴は埋まらなかった。底が見えず、地獄まで続いてる。

飛び込んでしまえば楽だという囁きを聞きながら、裕治は無駄と知りながら

土をかぶせ、穴をうめようとした。それは無限に続くと思われた。


厳しい言葉が続く、私はテレビからの情報しか知らなくて

そして、どちらかと言えば、この辛い現場で起こった事から目をそむけようとしていた


真面目で正直に生きる彼ら達に、自然は取り返しがつかないほどの天災で襲いかかる


それでも人は生きていかなければならない

次々と起こる不幸に立ち向かわなければならない


夢中で読んで一日で読破してしまったが、本書の内容は重くて、何日もかかっても先が見えないほどの厚みを感じる


素晴らしい作品に出会えました


芥川賞受賞おめでとうございます。