うちの父は
生真面目で
不器用で
子供に愛情表現などしない
恥ずかしがりやな人だった。
 
そんな父が
死んでしまう
2~3週間前に
 
緩和病棟の
白くて明るい病室で
2人きりだったとき
 
手を持ちあげるのも
大変だったんだろう
 
それでも
天井の隅っこを
ゆっくりゆっくりと
指で指し示して
 
「あ、天使、ほら、あそこ」
 
と言った。
 
指で示されたほうを
見てみたけれど
そのときの私には
天使は見えなかった。
 
父は元気だったときには
天使なんて言葉を
口に出して言うことなんか
絶対なかったから
 
私はすごくおどろいたけれど
 
あの時
こっちの世界と
あっちの世界の間を
うつらうつらとしながら
行ったりきたりしていた
父には
本当に
天使が見えていたんだと
 
そして
病の痛みで
苦しそうな父の側にいるのは
悲しくつらかったけど
 
天使が側にいてくれるんなら
大丈夫、って思えたのだった。
 
 
 
父の命日
あさって。
 
 
この季節の
空気の冷たさや
色づく木々の葉や
落ち葉の匂いなんかが
 
あの頃の記憶と
つながっているから
どうしたって、思い出してしまう。
 

 

どうしたって私は

父の娘なんだ。