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絵は、めぐっぺさん です。


【泣いた赤鬼~スピリチュアルバージョン】


「泣いた赤鬼」という日本昔話があります。とても心暖まるお話ですが、赤鬼のために自らが悪者になって、村を去った青鬼がかわいそうと思った人も多いのではないでしょうか。

でも、本当に青鬼はかわいそうなだけの損な役回りだったのでしょうか。

これは、そんな疑問に答えるために書いた後日譚です。


・・・


さて、そのあとのお話。


赤鬼のために、自分が犠牲になり、姿を消した青鬼。

そのやさしさと友情に、赤鬼は、泣きながら、とてもとても感謝しました。

感謝しても、しても、全然し足りないと思いました。


そこで、赤鬼は真剣に考えました。

『姿を消した青鬼の友情に報いるには、自分はどうすればいいだろう。』

赤鬼は、何日も、何日も、真剣に考えました。


そして、


『そうだ。青鬼くんが私のために身を捨ててくれたように、

私も、村人たちのために働こう。

  私が青鬼くんに代わって、青鬼くんのように、村人たちのしあわせ

のために粉骨砕身、働くことが、青鬼くんからもらったご恩に報いる唯一の方法にちがいない。』


そう心に決めた赤鬼は、村に行くと、村人に

『何か困ってることはないか』

と尋ねました。

村人は、

「最近、日照りが続いていて、水が不足している。

近くの川から水を農地まで引けるといいのだが」

と言いました。


赤鬼は、

『そうか、お安いご用』

と言って、村から川までの水路を一人で掘り始めました。

赤鬼は、怪力でどんどん水路を掘り進めていきました。


そんな重労働はいやだと思っていた村人たちは、はじめは遠巻きに赤鬼をながめていましたが、

やかて、一人、また一人と、赤鬼の作業を手伝うようになりました。


村の子供たちも、

「家の手伝いはせんでいいから、赤鬼さんを手伝っておやり」

とお母さんに言われて、おっかなびっくり、赤鬼のところにやってきました。

最初は、赤鬼を怖がっていた子供たちでしたが、赤鬼や村人が頑張っている姿を見て、

自分にできる仕事はないか、それぞれが探し始めました。


いつの頃からか、夜になると、村人の誰かが酒を持って来るようになり、

夜は赤鬼を囲んで、みなで酒を酌み交わすようになりました。


貧しい村でしたので、そんなにたくさん、お酒が飲めるわけではありませんでしたが、

赤鬼は、村人の心遣いに感動しました。

そして、自分を囲んで、村人たちが楽しく語り合い、薄い味の酒を分かち合いながら、

歌ったり、踊ったりするのを見て、

赤鬼は、自分の心にあった、何か硬いものが浄化されるのを感じました。

そして、ますます『村のために頑張ろう』と、決意を新たにするのでした。


結局、川と村をつなぐ水路ができるのに、それから一年の歳月がかかりました。

水路の完成を祝って、誰かが

「この水路を“赤鬼水道”と名付けて、末代まで語りつごう」

と言い出しました。

みんな、

「そうだ、そうしよう」と賛成しました。


しかし、赤鬼は、

『この水路は自分一人が作ったんじゃない、

みんなの力を借りて、作ることができた。

だから、みんなの名前も入れてほしい』

と言いました。


すると、誰かが、

「みんなの名前を入れたら、長い長い名前になってしまって、覚えられんから、

やはり、ここは、みんなを代表して、赤鬼水道でいいんじゃなかろうか」

と言いました。

他の村人も、「そうだそうだ」と言いました。


赤鬼は、『それならば』と、みんなに青鬼の話をしました。

『自分がこれほどがんばることができたのは、青鬼が悪者役をして、

自分とみんなを友達にしてくれたからなんだ、

だから、青鬼のことも、みんなには覚えていてほしい』

と涙ながらに語りました。


村人たちも、

「そうだったのか、知らなかった」

と、もらい泣きしました。


「そんじゃ、青鬼の名も入れて、赤鬼青鬼水道にしよう」

と、また誰かが言いました。

今度は、みんな大賛成でした。


こうして、新しい水路は、赤鬼青鬼水道と呼ばれ、

末代まで赤鬼青鬼のお話とともに、語り継ぐことになりました。


それからも、赤鬼は、村のために数多くの仕事をしました。

赤鬼は、三百年生きました。

その間、村人たちは、十世代入れ替わりました。

三百年も生きると、赤鬼の面相も白髪、白ヒゲの仙人のようになり、体力も衰えたため、村人の代表に知恵を授ける長老のようになりました。


赤鬼は、村人の尊敬の対象になり、毎年、赤鬼の住むほこらの前で、お祭りが開かれるようになりました。

赤鬼は、村人たちの祭りをながめながら、酒を飲むのが何よりの楽しみになりました。


ある朝、赤鬼が目覚めると、ほこらの中にきらきら光る階段が現れていました。

赤鬼は、驚きましたが、

『これはきっとお迎えが来たな』

と思いました。

『自分の人生になんの未練も、やり残したこともない』

赤鬼はそう思いました。

そして、ためらうことなく、光の階段を登っていきました。


階段はとても高い階段でした。

登っても、登っても、階上に行き着きません。

けれど、少しも疲れないのです。

『これは、きっと、天国へと続く階段にちがいない。』

赤鬼は、そう思いました。


やがて、うっすらと階上らしきものが見えて来ました。

誰かが階上で、赤鬼の到着を待っています。

赤鬼は、一目で、それが青鬼だとわかりました。

赤鬼は、飛ぶように階段を駆け上がりました。


ふと、気づくと、赤鬼は若い頃の姿に戻っていました。

青鬼も、別れた時の姿のままでした。

赤鬼と青鬼は、がしっと抱き合い、再会を喜び合いました。

お互いの目をとめどなく涙がつたっていました。

赤鬼は、青鬼に何度も何度も、『ありがとう』をいいました。

青鬼は、ただ黙ってうなづいていました。


すると、二人の頭上に、天からの声が響いて来ました。


「「赤鬼、青鬼よ。あなた方は、見事に人生での課題をクリアされました。


あなた方の課題は、


                  友愛


を体験することでした。


そのために、青鬼が赤鬼のために村を去ることを、あなたがたは生まれる前に話し合って、人生計画で決めていたのです。


さあ、あなたがたの人生の結果をご覧なさい。」」


天からの声がそう告げると、

空中に何やら映像が浮かび上がりました。

それは、赤鬼がいたほこらでした。

村人たちが、ほこらを立派にお祀りし、熱心に参拝していました。


赤鬼は、その映像を見ると、顔を手でおおって、おいおいと泣きました。


天からの声が告げました。


「「あなたがたの示した友愛が、村人たちの心を打ち、

友愛の種をあの村に残したのです。


  赤鬼よ、今後、あなたはあの村の守り神となり、

彼らの子々孫々までを見守りなさい。

  そして、これからは、この天界で青鬼とともに仲よく暮らし、

時々は、光の階段を降りて、村人たちの声に耳を傾けなさい。

  あなたがたがまいた友愛の種がどう育つか、見届けなさい。」」


こうして、赤鬼、青鬼は、仲よく天界の住人となり、

今も、村人たちの子孫を見守っているそうです。


残念ながら、赤鬼青鬼水道と名づけられた水路は、その姿をとどめていませんが、

今も、どこかの村はずれに、赤鬼を祀った神社は残っているようです。


そして、赤鬼青鬼の友愛の物語は、昔話「泣いた赤鬼」として、

今も多くの人々に語り継がれ、人々の心に友愛の種をまき続けているのです。


どっとはらい