二.天上界の会議
それからしばらくして、古今東西の英雄・豪傑たちに檄文が走り、天上界のあちこちに散らばっていた彼らが呼び集められ、一同に介する会合が開催された。
天上界の大きなホールには、地球のさまざまな文明において名をなした勇者たちが続々と詰めかけ、押すな押すなの大盛況であった。
しかも、魂の兄弟(*)全員を連れてくるものが多かったため、一人の英雄に魂の兄弟五人という塩梅で、会場は熱気に包まれていた。
みんな、今回の召集が、いかに重要な意味を持っているかを、薄々と感じているのだった。
ホールのステージの上には、議長である大天使ミカエルのほか、中央省庁より聖徳太子、日本神道を預かるアメノミナカヌシ、ヤマトタケル、スサノオといった男性神たち、そして、西洋代表のアレキサンダー大王の姿もあった。
日本神道の男性神のキーマンがそろっていることから、議題の中心が日本に関することなのは明らかだった。
劉備や曹操ら、中国の英雄たちも、やはり魂の兄弟を連れてきていた。
彼らは、魂の兄弟の中から、一番すぐれた者を、今回の計画に抜擢するつもりだった。
そして、その中に、後に日本に生まれ、波乱の生涯を送ることになる、坂本龍馬の魂もいたのだった。
壇上の大天使ミカエルが口火を切った。
「皆様、ようこそお集まり下さいました。
このたび、どうしても皆様のお力をお借りしなければならない局面がやって参りましたので、急遽お集まり頂きました。
では、このたびの計画につきまして、私の方よりご説明いたします。」
大天使ミカエルは、美しい声を響かせながら、話し始めた。
「今、日本が危機に瀕しています。
日本という国は、現文明の最終段階において、世界を救う使命を持って、造られました。
日本には、精神的リーダーとして、世界を大調和の理念のもとに、ひとつにまとめるという使命があります。
ここにおられる聖徳太子という方が、古代日本である大和の国に生まれた時に、『和をもって、尊しとなす』と言われて、国を治められました。
これは、日本という国の持つ使命を端的に表された言葉であります。
そして、その大調和の理念を日本の地にしっかりと根づかせるために、今まで日本を守り、指導してこられたのが、ここにおられる日本神道の皆様なのです。
日本に降ろされた教えは、日本神道の中に込められて、人から人へと伝えられ、受け継がれて参りました。
それは、東洋文明の中核をなす教えでもありましたが、その教えを守るために、諸外国との交流も、必要最小限にとどめておく必要がありました。
モンゴル帝国が中国を征服して、日本を襲ったことがありましたが、その際に神風を起こして、彼らを退却させ、日本を救ったのも、日本の文化・伝統を守る必要があったからです。
しかし、今、この文明の総仕上げの段階として、西洋に降ろした科学文明が急速に発展し、西洋の人々はその技術を持って地球をめぐり、他の原始的ではあるけれど、素朴で平和だった国々を侵略し始めています。
イギリスの民が大陸に渡り、アメリカという国を建国しましたが、そのアメリカが太平洋を渡り、日本にやってくることになっています。
しかし、今の日本は島国の平和を謳歌して、外国がやってきたときの備えをまったくしていません。
ある意味で平和な社会体制が定着してはいるのですが、鎖国をして、国の安定をはかっているような状況では、これからの使命を果たすことはできないのです。
諸君、これから日本は、新しい国造りを始めなければなりません。
日本がこれからの時代に世界を牽引する精神的リーダーとなるためには、日本は西洋の国々に劣らない力をつける必要があります。
旧態依然とした古い社会を解体し、新たな近代国家として産声をあげるのです。
そのためには、社会を改革するという荒療治が必要になってきます。
さあ、ここに集まった勇士の皆さん、立ち上がりましょう!
今こそ、皆さんの力を発揮するときです!
命知らずで勇猛果敢な皆さんの情熱的な力が、今の日本には必要なのです!
日本のため、いえ、世界のために立ち上がって下さい!」
たちまち、場内は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「やろう!」
「やろう!」
集まったものたちは口々に叫んでいた。
このような大きな使命を頂いて、感謝の涙を流すものさえいた。
もともと根が単純なものたちが多かったこともあり、我も我もと名乗りを上げた。
魂の兄弟全員が
「俺が行く」
「いや、俺だ」
と言って、殴り合いを始めるものまでいる始末だった。
とりあえず本体霊が代表者を決めて後日申請することになり、その場は散会となった。
* 魂の兄弟
地球での魂修行を効率的に行うために、一つの魂から五つの兄弟・姉妹となる魂を作り、交代で地上に転生する仕組みが採用されており、それを「魂の兄弟」という。
本体一に兄弟または姉妹五の組み合わせが通常だが、芸術家には男女同一の組み合わせのものも多い。