【リコからリタへ】
はあい、あたし、リコ。
利口のリコ、利己主義のリコよ。
あたしは自分のことが一番大事なの。
みんなだって、そうでしょ。
そうに決まってる。
自分ほどかわいい存在は他にないものね。
人間は誰もが幸せになる権利を持ってるの。
だから、その権利を行使して、何が悪いのかしら。
自分の幸せは他人の不幸?
ふふん、そうかもしれないわね。
でも、この世は競争社会なんだから、
仕方ないじゃない。
生き残らなきゃ、この世に生まれてきた
意味がないのよ。
私は自分が一番大事。
その次は家族かな。
家族は自分の味方だものね。
家族で仲が悪いのって、サイアクよね。
誰を味方にしてるのかしら。
誰もが味方がいないのかしらね。
私は友達も大事よ。
仲のよい友達はかけがえがないし、
大切にしなきゃ。
私にとって必要な人、それが友達よ。
私にとっていらなければ、
友達とは言えないわ。
仲の悪い人を友達とは呼べないわよね。
当たり前よね。
私は自分が幸せになるために人生頑張ってきたんだけど、最近、疲れちゃってさあ、なんか元気が出ないんだよね。
自分の幸せって、いったい何だろうって思ったりして。
顔がかわいくてモテるのが幸せ?
お金があるのが幸せ?
友達がたくさんいるのが幸せ?
有名になるのが幸せ?
今のあたしはそのどれも持ってないの。
でも、そこそこは幸せだと思うわ。
家族が好きだし、
友達が好きだし、
食べるのも寝るのも好き。
これって、小市民的かなあ。
今日ね、ひとつ、いいことあったんだ。
ねえ、聞いてくれる?
満員電車でさ、席に座れたんだ。
とってもラッキーじゃない?
でも、座ってすぐ次の駅で、おばあさんが乗ってきたの。
でも、みんな知らんぷり。
冷たいわよね、みんな。
でも、自分さえよければいいんだもの、仕方ないよね。
でも、そのおばあさん、しんどそうにしててさ、気になっちゃって、あたし、次の駅でさ、
『あの、あたし、ここで降りるんで、座って下さい!』
って大声でおばあさんに声をかけて、飛び降りたの。
そうしたら、おばあさんが電車の中から私にお辞儀してくれてさ。
電車はそのまま走って行ったの。
あたし、なんか、めちゃくちゃいい人じゃん?
そう思ったら、なんだが嬉しくなっちゃって。
まあ、そのおかげで、学校に遅刻しちゃったけどね。
一日一善って、こういうことを言うのかなあって思ったよ。
それでさ、あたしなりに考えたんだけど、
人を幸せにするって、自分も幸せになることかもしんないって思うわけ。
自分のために席に座り続けることだってできたけど、身体はラクチンだけど、心はモヤモヤしてただろうなって思うし。
なんか後ろめたい気分、引きずるのもやだし。
あはっ、あたしって、自分がイヤだと感じることはしたくないだけかも。
あたしには親友がいるの。
リタっていうの。
あたしとよく似てる名前でしょ。
性格は真逆なんだけどね。
リタはあたしとちがって、人のために何かするのが好きみたい。
電車では席を譲るのはしょっちゅうだし。
でも、おじいさんに席を譲ろうとして、
『わしゃまだもうろくしとらんわい!』
って、しょっちゅう怒鳴られてしょげてるの。
そこがまたかわいーのよね。
リタの親切を素直に受け取る人と、そうでない人がいるみたい。
だから、リタはしょっちゅう落ち込んだりしてる。
人のためと思ってしたことが、逆にうっとおしがられたりするんだって。
だから、あたしはいつもこう言うの。
『人のためなんてさ、おせっかいはもうやめて、自分のために生きなよ!』って。
でも、リタは首をふるふるさせて、
『でも、私はそれしかできないし…』
って言うのよ。
信じられないわよね。
あたしにはリタの思考回路はチンプンカンプンだけど、あたしにもやさしくしてくれるから、いいんだ。
同じクラスだから、忘れ物しても、貸してくれるしね。
それで、先生に叱られるの。
バカみたいでしょ?
忘れ物したのはあたしなのにさ。
だから、あたし、言ってやったの。
自分がしてないことで怒られるのはやめなって。
人の罪かぶるなんて、お人好しもいい加減にしなって。
でも、リタはそうは思わないみたい。
怒られるためにしたんじゃない、あなたのためにそうしただけだからって。
あたし、こいつマジかって思ったわよ。
いいコちゃんぶりっ子もたいがいにせえよって思ったんだけど、誰にでもそういう態度なんだよね。
なんか、バカみたいなんだけど、憎めないんだわよね。
あたしにないものを持ってるからかなー。
だから、リタはあたしのなかよしリストに入れてあげてるの。
真逆なあたしたちがつるむの、みんなびっくりするけどさ、そんなの関係ないもんね。
あたしはリタが好き。
あたしにないものを持ってるリタがね。
だから、いつまでもなかよくしてね、リタ!
リコより