龍馬伝異聞

 

(題字 吉野理恵子)

 

 

第一部     人生計画

 

一.桃園にて

 

 

とある午後の昼下がり。

かつて中国の歴史を賑わした英雄・豪傑たちが肩を並べ、天上界の桃園で酒を酌み交わしていた。

座の中心にいるのは三国志の英雄である劉備玄徳、諸葛孔明、曹操、孫権、関羽、張飛らである。

お調子者の張飛が、劉備に向かって、

「しかし、なんですな、この面子で酒を酌み交わすのは数百年ぶりではござらんか。まったく兄者も人が悪い。今まで声もかけて下さらず、水くさいではありませんか。」

と文句を言った。

「何を言う張飛。こちらの世界に帰ってからというもの、お前の方こそ好き勝手に暮らしておるではないか。兄者は忙しい身であられるのだ。こうして宴に呼んでもらえただけでも、ありがたいと思え!」

と、張飛の兄貴分の関羽。

「まあまあ、二人とも。せっかくこうして昔の仲間が集まったんだ。昔話を肴に楽しく飲もうではないか。」

と宴の主催者である劉備がたしなめた。

そこで、曹操が、

「されば劉備、我々はあの当時、国土が荒廃し、血で血を洗う泥沼状態に陥っていた末期の漢王朝を建て直すため、大挙して地上に降りていった。

我々が力を合わせれば、天下国家統一は成し遂げられたはずだったが、それはかなわず、次の世代に持ち越されてしまった。

それはなぜだったと思う?」

と問いかけた。

曹操は、このように、相手に論戦をふっかけて、打ち負かすのが好きなのだった。

「また曹操の悪い癖が始まった。

奴は政治村(*)でも、日がな一日、天下国家を論じて飽きることを知らん。困ったものだ」

と孫権が苦々しそうに言った。

(そう言う孫権も、政治村に住んでいるのだが。)

曹操は議論が熱を帯びると、相手をとことんやっつけるまで話をやめないため、みなに敬遠されるところがあった。

それでいて、本人にはまったく悪気がないので、始末が悪い。

劉備が返答に困っていると、

「されば、私がお答えしてしんぜよう。」

と、諸葛孔明がすっくと立ち上がり、自説をとうとうと述べ始めた。

「やっばり曹操を黙らせるには孔明先生だね」

誰かがそうつぶやき、みんな、うんうんと、うなずいた。

*政治村

天上界にある政治家の魂たちが暮らしている村。仲間たちとあるべき政治の姿を議論し、自分の理想を掲げて、地上界に降り、政治家になって、自分の理論を実践し、また天上界に戻ってきて、うまくいった点、いかなかった点を反省し、自分の理想を高めていく。そういうことが好きな魂たちが集まっている。

 

「それはそうと、地上世界では西洋文明の進歩が著しいが、その反面、東洋の国々は科学技術において西洋より大きく遅れをとっている。

今回の文明では、最初に宗教を降ろし、人々の心に信仰心を根づかせてから、最後に科学技術を教えて、宗教と科学の融合した文明にする計画だと、聞いたことがある。

だが、西洋では短期間で科学技術が進歩し過ぎたために、皆の目がそちらにいってしまい、せっかく前もって降ろしておいた宗教が、形骸化しているようだ。」

と、劉備が心配そうに言った。

「然り。文明の最終段階では、西洋文明と東洋文明の融合も予定されていると聞く。

しかしながら、このままでは、西洋文明に東洋の国々が蹂躙されるのは、時間の問題だ。

我々も、東洋の国々を西洋文明の侵攻から守るために、近々下生せねばならんだろうな。」

と関羽。

「その件については、近く中央省庁(*)より、今後の計画について、話があるそうだ。

我々もそのつもりで、来るべき日に備え、人生計画を練っておこう。」

孔明の言葉に、一同うなずくのだった。

 

 *中央省庁

天上界における中央省庁とは、地球霊界を統括しているところ。地球における魂の修行形態の決定や今後の地球文明のビジョンの策定、ビジョン実現までのロードマップの策定など、地球人類の将来の方向性を決定する役割を担っている。

 

続く