【夏祭り】
中学二年の夏祭りを、彼女と僕は、一緒に過ごすことになった。
二人きりではなく、他の友人たちと一緒に、だが、
それでも、大きな進展だ!
夜店を友人たちと一緒にめぐりながら、
店頭のマスコットに、
「あ、これ、かわいいっ!」
と、にっこり笑う彼女。
その顔を見て、
僕はプイとソッポを向いて、
誰にも聞こえないような声で、
「バカ、そういうお前の方が、
かわいいよ」
と、
そっと、
つぶやいた。
夜店のあとは、
河原に出て、花火。
男友達は、打ち上げ花火などに
興じていて、
それを女子が遠巻きにして、
きゃあきゃあ
はしゃいでいた。
けれども、彼女は
そんな馬鹿騒ぎには興味がないように、
線香花火などの静かな花火を楽しんでいた。
花火に照らされて、
暗闇の中に浮かぶ彼女の顔は、
どこか神秘的で、
僕は、そんな彼女を
いつまでも見ていたい衝動にかられた。
そんな僕のまなざしに気づいたのか、彼女は、少し僕の方を見て、にっこりと笑うと、すぐに花火に目線を戻した。
彼女と目線を合わせた瞬間、
僕のハートは、打ち上げ花火になって、夜空に舞い上がった。
やがて、彼女の持っていた花火はその役割を終え、彼女の姿も闇の中に消えた。
僕は、反射的に残りの花火の束をつかむと、彼女のいるところに持って行った。
そして、花火の束を差し出すと、
「これ、使う?」
と聞いた。
彼女は、懐中電灯をつけて、僕と、手元の花火を交互に照らすと、
「うん、ありがとう」
と、短く答えた。
そして、成り行きで、僕は、彼女のとなりで、至近距離で彼女の花火を見る幸福にありついた。
彼女は、僕から花火を受け取ると、均等に彼女の女友達にも配り、もちろん、僕の分もちゃんと残してくれた。
そして、マッチで火をロウソクにつけると、それを火種に、次々と手際よく、花火に点火していった。
彼女のそんな仕草のひとつひとつが愛おしくて、僕の心臓は早鐘のように鳴るのだった。
きっと顔も真っ赤になっているはずだが、暗闇がそれを隠してくれているのがありがたかった。
花火が終わると、解散となった。
僕は名残惜しい気持ちで、彼女ともう少し同じ時を過ごしたいと思った。
そして、帰ろうとする彼女の背中に思い切って声をかけた。
とっさのことで、自分が彼女になんと言ったか、今も思い出せないのだが、彼女は短く、
「うん、いいよ。」
と言ってくれた。
そして、二人でこっそりとみんなから離れ、小高い丘の頂きにある神社の石段を登っていった。
二人で丘から見おろす夜景は絶景で、彼女もとても喜んでくれた。
そして、
「私も、前からあなたのこと、好きだったの。」
と言って、ほっぺにキスしてくれた。
あまりの展開に、僕は自分が夢を見ているのではないかと思った。
そして、
「くそ〜、もしこれが夢なら覚めないでくれ〜‼」
と、心の中で強く願った。
すると、彼女は、クスクスと笑い転げたので、なぜ笑うのと聞くと、
「だって、きみ、わかりやすいんだもの」
と言った。
なんでも、彼女には、相手の考えていることがわかる特殊能力があるらしく、
「男はね、みんな、バカでエッチなの。だから、嫌い」
と、そっけなく言った。
僕も一応、男なんだけど、と言うと、
「あなたは、他の男子より心が澄んでるのがわかるから、好きになったの。」
と短く言った。
彼女によると、大部分の男は、女を顔と体で判断するそうだ。
相手の性格というのは、そのあとらしい。
「私ね、ある時から、男の人の視線を感じるようになっちゃって、男って、なんていやらしい目で女を見るんだろう、と思って、いやでいやでしょうがなかった。」
と言った。
僕だって、そう言われれば、思い当たることはいくらでもあった。
でも、悲しいかな、男はそういう風にできてるんだよと、彼女に言うと、彼女は、
「うん、今は私もそう思えるようになって、男の人の視線を受け流せるようになったけどね」
とウインクした。
「私ね、みんなに思われてるような、いい子じゃないの。気は強いし、頑固だし、そんなにやさしくないし。
でも、人から嫌われるのはいやだから、本当の自分でない優等生を演じてきたの。
でも、いい加減もう疲れちゃった。
私は、私のありのままをみてくれる人がいいの。
そんな人と、友達や恋人になれたらなあって。
きみなら、本当の私をわかってくれるかなあって、そう思ったの。
…ごめんね、私のことばかり話して。こんな私、嫌い?」
僕は即座に
「そんなことないよ。君は君らしくいればいいんだ。自分をいつわる必要なんてないんだ。それで離れてく奴がいたら、そんなの本当の友達じゃない。
僕はずっと君にあこがれて、君のこと、遠くから見てた。君の外見ばかり見てたことに今、気づいたよ。
でも、僕を信じて、正直に話してくれてありがとう。
僕も、これからはもっと自分に正直に生きるようにするから、君も是非、そうしてくれ。
僕はもっともっと君のことが知りたい。本当の君を見ていたい。」
それだけ言うと、なんだか気が楽になった。初めて彼女と対等な目線に立てた気がした。
「うん、ありがとう。」
彼女はそう言って、そっと僕の手を握ってくれた。
今度は、僕のハートは、打ち上げ花火にならずに、しっかりと着地していた。
そうして、僕は、この夏休みの夜から、彼女の彼氏に昇格したのだった。
よっくる
BGM 打上花火 https://youtu.be/-tKVN2mAKRI
2013年7月執筆