【怪獣ネロン】
作 谷よっくる
歌 生きるしるし 冨田佳音
生きるしるし

(絵 かながわあやみ)
この物語を、
「ウルトラマン」を見て、
すべての怪獣や宇宙人が悪者だと思いこんでいる人に捧げる。
本当は、
すべての怪獣も宇宙人も、いいやつなのかもしれないね。
ある星にネロンという怪獣がいました。
ネロンは大きな体に大きな角をはやし、恐ろしい声で鳴きました。
雷を落とすこともできたので、町の人はネロンをたいそう恐れていました。
別にネロンになにかされたわけでもないのに、ネロンがいつ襲ってくるかとおびえていました。
血気にはやる若者がネロンを退治しようとチームを組んで、やってくるので、ネロンはいつも尻尾であしらい、追い返す、そんな毎日を過ごしていました。
ある時、ネロンは神様に聞きました。
「ねえ、神様、僕は何にも悪いことをしていないのに、人間たちは僕を退治しようと襲ってくるよ。なんでだろう?僕はもっと彼らと仲よくしたいのに。」
神様はネロンにこう言いました。
「恐怖じゃよ。
恐怖がお前さんをありもしない凶暴な怪獣に見せておるのじゃ。
その恐怖を克服して、ありの ままのお前さんを見ることができれば、人間はお前さんと仲よくするだろう。
それは大きな魂の成長となるのじゃよ。
そのために、わしはお前さんをこの星へ使わしたんじゃ。
長い寿命を持たせてな。」
ネロンは神様の言葉を聞いて、そうかあと納得しました。
「うん、わかった。人間の成長に役立つなら、僕がんばるよ。
そして、人間が本当の僕に気づいてくれる日を待つよ。」
それからも、ネロンをやっつけようと、毎日毎日、人間たちはやって来ました。
ネロンは寝たふりをしていましたが、あんまり人間たちがしつこいと、時々大きなアクビをして、人間たちをこわがらせ、追い払いました。
しかし、ある時、人間の中から英雄が現れ、たった一人でネロン退治にやって来ました。
この英雄は、ネロンの弱点が耳の裏だということを見抜き、執拗に攻撃してきました。
「イタタタタ、痛い痛い!」
ネロンはあまりの痛さにねぐらの洞穴から飛び出すと、無我夢中で走り出しました。
でも、ネロンの走る先には人間たちの町がありました。
ネロンは結果的にたくさんの家を踏み潰し、たくさんの人間を殺してしまいました。
ネロンが正気に返ると、町は瓦礫の山になっていました。
あちこちで、親を失った子供たちのすすり泣く声が聞こえてきます。
ネロンは人間の子供が大好きで、以前はこっそり遊んだりしたこともあったのです。
泣いている子供の中にはネロンが昔遊んだ子供の顔も見えました。
ネロンはたまらなくなって、火山をかけ登ると、火口に身を踊らせて、死んでしまい
ました。
その後、英雄は怪獣を退治したとして、人々から称賛されました。
英雄は自分がネロンを倒したのではないことを人々に言えませんでした。
でも、英雄は見ていたのです。
ネロンが自ら火口に身を投げたのを。
(怪獣を町に追いやり、たくさんの犠牲者を出してしまったのはオレだ。
オレの責任だ。
だが、みんな、そんなこととは露知らず、オレを英雄に祭り上げている。
みんなにとっては怪獣がいなくなったことだけが重要なんだ。
それにしても、なんだってあの怪獣は火口に身を投げたんだろう?
もしかすると、あの怪獣は心のやさしいヤツだったんじゃないだろうか。
あの怪獣を恐ろしいと思っていた私たちの方が間違っていたんじゃないか?)
英雄は町の子供たちに聞いてみました。
ネロンに親を殺された子供たちは、英雄に感謝し、ネロンを罵りました。
子供たちは親を奪われた怒りで、ネロンと遊んだことなど忘れてしまっていました。
でも、一人の女の子が英雄の腕を引っ張ると、誰もいないところに連れていってから、言いました。
「私たち、前はあの怪獣と遊んだことがあるのよ。
あの怪獣は本当は子供好きのやさしい怪獣なの。
なんで、あの日、あんなに暴れたかわからないわ。
おじさんは知ってる?」
女の子にそう聞かれて、英雄は走り出しました。
女の子に答える言葉が見つからなかったからです。
英雄は自分の過ちに気づき、ネロンが身を投げた火口に向かって泣きました。
「なぜ、どうしてこんなことになったんだ!? みんな、仲よく暮らせばよかっただけなんじゃなかったのか? 教えてくれっ!」
英雄はどうしていいかわからずに、火口に向かって叫び続けました。
そんな英雄の姿を空の上から眺めているものがありました。
死んだネロンの魂と神様でした。
ネロンは神様に尋ねました。
「ねえ、神様、あの人はなぜあんなに苦しんでいるの?」
神様はやさしく答えました。
「あの男はの、人の業を一身に背負っておるのじゃよ。
今、彼らが学ばねばならぬことはの、恐怖を捨てることじゃ。
恐怖を捨てて、ありのままを見て、受け入れることじゃ。
それができていれば、このような痛ましい結末にはならんかったじゃろう。
人々がの、お互いを信頼しあい、仲よく暮らせば、争いはなくなる。
あの男もいずれ、それを悟るじゃろう。
そして、その悟りを人々に伝え、広めるじゃろう。
平和の歌とともに、やさしかった怪獣、そう、お前さんじゃ、お前さんの伝説とともにのう。」
ネロンの顔がパッと輝きました。
「わ、わ、ほんとにそうなる?
そうなるといいな。
そうしたら、僕、もう一度、生まれ変わっていいかな?
そして、今度はみんなと楽しく暮らすんだ!」
神様はネロンの大きな顔をなでながら、言いました。
「そうじゃのう、ネロン。
人々が愛に目覚め、平和に暮らす日を夢見るがいい。
それは決して難しいことじゃない。
人々の心ひとつで決まるんじゃ。
見ているがいい、これから地上で織りなされる物語を。
次の登場人物はもうすでに配役済みじゃ。
あの子供たちの中にのう。」
ネロンはワクワクしながら、町にいる子供たちの顔を思い浮かべました。
今は、つらくても、あの子達には輝かしい未来が待っている。
そう思うと、子供たちの成長を早く見たいと心がはやるのでした。
おしまい

(絵 かながわあやみ)
この物語を、
「ウルトラマン」を見て、
すべての怪獣や宇宙人が悪者だと思いこんでいる人に捧げる。
本当は、
すべての怪獣も宇宙人も、いいやつなのかもしれないね。
ある星にネロンという怪獣がいました。
ネロンは大きな体に大きな角をはやし、恐ろしい声で鳴きました。
雷を落とすこともできたので、町の人はネロンをたいそう恐れていました。
別にネロンになにかされたわけでもないのに、ネロンがいつ襲ってくるかとおびえていました。
血気にはやる若者がネロンを退治しようとチームを組んで、やってくるので、ネロンはいつも尻尾であしらい、追い返す、そんな毎日を過ごしていました。
ある時、ネロンは神様に聞きました。
「ねえ、神様、僕は何にも悪いことをしていないのに、人間たちは僕を退治しようと襲ってくるよ。なんでだろう?僕はもっと彼らと仲よくしたいのに。」
神様はネロンにこう言いました。
「恐怖じゃよ。
恐怖がお前さんをありもしない凶暴な怪獣に見せておるのじゃ。
その恐怖を克服して、ありの ままのお前さんを見ることができれば、人間はお前さんと仲よくするだろう。
それは大きな魂の成長となるのじゃよ。
そのために、わしはお前さんをこの星へ使わしたんじゃ。
長い寿命を持たせてな。」
ネロンは神様の言葉を聞いて、そうかあと納得しました。
「うん、わかった。人間の成長に役立つなら、僕がんばるよ。
そして、人間が本当の僕に気づいてくれる日を待つよ。」
それからも、ネロンをやっつけようと、毎日毎日、人間たちはやって来ました。
ネロンは寝たふりをしていましたが、あんまり人間たちがしつこいと、時々大きなアクビをして、人間たちをこわがらせ、追い払いました。
しかし、ある時、人間の中から英雄が現れ、たった一人でネロン退治にやって来ました。
この英雄は、ネロンの弱点が耳の裏だということを見抜き、執拗に攻撃してきました。
「イタタタタ、痛い痛い!」
ネロンはあまりの痛さにねぐらの洞穴から飛び出すと、無我夢中で走り出しました。
でも、ネロンの走る先には人間たちの町がありました。
ネロンは結果的にたくさんの家を踏み潰し、たくさんの人間を殺してしまいました。
ネロンが正気に返ると、町は瓦礫の山になっていました。
あちこちで、親を失った子供たちのすすり泣く声が聞こえてきます。
ネロンは人間の子供が大好きで、以前はこっそり遊んだりしたこともあったのです。
泣いている子供の中にはネロンが昔遊んだ子供の顔も見えました。
ネロンはたまらなくなって、火山をかけ登ると、火口に身を踊らせて、死んでしまい
ました。
その後、英雄は怪獣を退治したとして、人々から称賛されました。
英雄は自分がネロンを倒したのではないことを人々に言えませんでした。
でも、英雄は見ていたのです。
ネロンが自ら火口に身を投げたのを。
(怪獣を町に追いやり、たくさんの犠牲者を出してしまったのはオレだ。
オレの責任だ。
だが、みんな、そんなこととは露知らず、オレを英雄に祭り上げている。
みんなにとっては怪獣がいなくなったことだけが重要なんだ。
それにしても、なんだってあの怪獣は火口に身を投げたんだろう?
もしかすると、あの怪獣は心のやさしいヤツだったんじゃないだろうか。
あの怪獣を恐ろしいと思っていた私たちの方が間違っていたんじゃないか?)
英雄は町の子供たちに聞いてみました。
ネロンに親を殺された子供たちは、英雄に感謝し、ネロンを罵りました。
子供たちは親を奪われた怒りで、ネロンと遊んだことなど忘れてしまっていました。
でも、一人の女の子が英雄の腕を引っ張ると、誰もいないところに連れていってから、言いました。
「私たち、前はあの怪獣と遊んだことがあるのよ。
あの怪獣は本当は子供好きのやさしい怪獣なの。
なんで、あの日、あんなに暴れたかわからないわ。
おじさんは知ってる?」
女の子にそう聞かれて、英雄は走り出しました。
女の子に答える言葉が見つからなかったからです。
英雄は自分の過ちに気づき、ネロンが身を投げた火口に向かって泣きました。
「なぜ、どうしてこんなことになったんだ!? みんな、仲よく暮らせばよかっただけなんじゃなかったのか? 教えてくれっ!」
英雄はどうしていいかわからずに、火口に向かって叫び続けました。
そんな英雄の姿を空の上から眺めているものがありました。
死んだネロンの魂と神様でした。
ネロンは神様に尋ねました。
「ねえ、神様、あの人はなぜあんなに苦しんでいるの?」
神様はやさしく答えました。
「あの男はの、人の業を一身に背負っておるのじゃよ。
今、彼らが学ばねばならぬことはの、恐怖を捨てることじゃ。
恐怖を捨てて、ありのままを見て、受け入れることじゃ。
それができていれば、このような痛ましい結末にはならんかったじゃろう。
人々がの、お互いを信頼しあい、仲よく暮らせば、争いはなくなる。
あの男もいずれ、それを悟るじゃろう。
そして、その悟りを人々に伝え、広めるじゃろう。
平和の歌とともに、やさしかった怪獣、そう、お前さんじゃ、お前さんの伝説とともにのう。」
ネロンの顔がパッと輝きました。
「わ、わ、ほんとにそうなる?
そうなるといいな。
そうしたら、僕、もう一度、生まれ変わっていいかな?
そして、今度はみんなと楽しく暮らすんだ!」
神様はネロンの大きな顔をなでながら、言いました。
「そうじゃのう、ネロン。
人々が愛に目覚め、平和に暮らす日を夢見るがいい。
それは決して難しいことじゃない。
人々の心ひとつで決まるんじゃ。
見ているがいい、これから地上で織りなされる物語を。
次の登場人物はもうすでに配役済みじゃ。
あの子供たちの中にのう。」
ネロンはワクワクしながら、町にいる子供たちの顔を思い浮かべました。
今は、つらくても、あの子達には輝かしい未来が待っている。
そう思うと、子供たちの成長を早く見たいと心がはやるのでした。
おしまい