エルフィーナは森の学校の校長先生で、エルフィのママの友人。
エルフィが学校で過ごすのを見守る役割。
でも、ときどき、一対一でエルフィと向かい合い、指導してくれることも。

このシーンは水晶玉にいろんなイメージを浮かべる術をエルフィに見せている。
エルフィーナの霊力は、水晶玉にさまざまな光景を映し出す。
それを食い入るように見つめるエルフィ。
🌿《森の学校の午後》
森の奥深くに佇む、苔むした校舎。
木漏れ日が差し込む教室の一角で、エルフィーナは静かに水晶玉を机の上に置いた。
「今日は、これを使って“心の映し方”を教えるわね」
エルフィは椅子にちょこんと座り、目を輝かせて水晶玉を見つめた。
「これって、未来が見えるの?」
エルフィーナは微笑みながら首を振る。
「未来も、過去も、今も──心が強く望むものが映るの。
けれど、ただ覗くだけでは何も見えないわ。
心を澄ませて、感じてみて」
エルフィはそっと目を閉じた。教室の外では風が葉を揺らし、遠くで鳥が鳴いている。
静かな時間が流れたあと、水晶玉の中に、ふわりと光が灯った。
「…あっ」
エルフィの瞳が見開かれる。
水晶玉の中には、笑顔の仲間たちが映っていた。
森の広場で輪になって踊る姿。
その中に、自分もいた。
「これ…私?
ほんとはちょっと不安だったの。みんなとちゃんと仲良くできてるかって…」
エルフィーナはそっとエルフィの肩に手を置いた。
「これはあなたの心を映したものよ。
絆は、目に見えないけれど、ちゃんとそこにある。
信じてごらん」
エルフィは小さくうなずいた。
水晶玉の光が、彼女の胸の奥まで届いたようだった。
その日、森の学校の午後は、いつもより少しだけ、あたたかだった。
嵐の予感
エルフィが水晶玉を触っていると、水晶玉にある光景が浮かび上がってきた。
それは、嵐の光景だった。
荒れ狂う海。
津波が街を襲い、人々が逃げ惑う。
洪水が街を水浸しにする。
家を失い、呆然とする親たち。泣く子供たち。
そして、その嵐はエルフの森にもやってきて…
🌫️ エルフィーナの心の中の独白
「この子の瞳に、まだ曇りはない。
でも…この嵐は、やがてすべてを飲み込む。
この嵐の意味をどうやってこの子に伝えたらよいのだろう──」
エルフィーナは、真実を伝えることでエルフィの心に影を落とすことを恐れている。
でも、彼女の魂はエルフィと繋がっている。
だから、平然と嘘をつくことはできない。
沈黙も痛みになる。
エルフィはエルフィーナに問います。
『ねえねえ、お母さんは大丈夫かな?』
故郷でエルフィの成長を心待ちにしているお母さんのことが心配になり、エルフィは聞きます。
『おうちも嵐に会うのかな?』
エルフィーナは、エルフィに言います。
『いいこと、エルフィ。これは近い将来のビジョンではないのよ。だからといって、遠い未来の話でもない。いつ起こるのかは誰もまだ知らない。だけど、警戒を怠ってはならないの。』
エルフィは今すぐ嵐が来るわけではないと知り、ほっとします。けれど、心は不安を抱えたままなのでした。
シンシア
エルフィは深くため息をつきながら、教室をあとにした。
放課後の森の学校には、静かで優しい風が吹いていた。
森の道を歩いていると、うしろから自分を呼ぶ声が聞こえ、立ち止まると、たたたと走り寄ってくる足音。
「エルフィ、どうしたの?そんな顔して」
足音の主は、エルフィの友だちのシンシアだった。
人間界を離れ、森の学校で育てられているシンシアは、エルフィにとっては妹のような存在だ。
エルフィが森の学校に入学してから、なかよしになり、アルファを姉のように慕って、いつもあとをついてくる。
最近は少し成長したようだが、エルフィの姿を見ると、このようにやってくるのだった。
木の根元に腰を下ろしたエルフィは、カバンから水晶玉を取り出した。そして、じっと水晶玉を見つめて、ぽつりと呟いた。
「…嵐が見えたの。水晶玉の中に。すごく怖かった」
シンシアは驚いたように目を見開いたが、すぐにそっと隣に座った。
「嵐って…どんなの?」
「黒い雲が渦巻いてて、津波や洪水が街を襲うの。雷が森を裂いてた。」
シンシアはエルフィの手を優しく握った。
「それ、未来のビジョン?
でも、まだ確定したものじゃないんでしょ?」
エルフィはうなずいた。
「エルフィーナ様が言ってた。『近い将来のビジョンではない。でも遠い未来というわけでもない』って」
しばらく沈黙が流れたあと、シンシアは微笑んだ。
「まだ、起こってもいないことで悩むのはエルフィらしくないよ。」
エルフィはその言葉に、少しだけ笑顔を取り戻した。
水晶玉の中の嵐は消え去り、あたたかな光が映し出された。それは、ふたりの間にある、見えないけど確かな絆のようだった。