夕闇がせまる公園のベンチに少女がひとり、腰掛けていた。
少女は高校生で、セーラー服を着ていた。
なにか悩みがある様子で、しきりにため息をついていた。
ふと、となりが気になり、振り向くと、
バチッ!
と目が合った。
人間とはちがう形状の生き物が、となりに座っている。
(少女)  な、ななななな、ないないないないっ!
少女はなかったことにしようと顔を伏せて、手で顔をおおった。
(少女)  まぼろし、まぼろし、まぼろし…。
呪文のように自分に言い聞かせると、
(少女)  よしっ!
と顔を上げて、横を向く。
相変わらずそこに異形(いぎょう)のものはいた。
少女はまた顔を伏せて、
(少女)  えええええーっ、なんでなんでなんで???
と自問自答した。
(少女)  わたし、なにか悪いものでもたべたのかしら。こんな幻覚を見るなんて。
なんだか自分の人生が終わったような気がした。
さきほどまで少女の頭を悩ませていたものは、どこかにすっ飛んでいった。
今はただ、静寂があたりを支配していた。
先ほどまで公園で遊んでいた子どもたちの声も聞こえない。
なんだか、異次元空間に押し込められたような気分。
少女は、はっとした。
そうか、異次元空間。
それなら、異形のものがいるのにも合点がいく。
なにしろ、異次元なのだから、この世の常識に縛られなくてよい。
その考えは少女の気持ちを少し楽にした。
なぜ自分がそんな空間に迷い込んだのか、そこまで考えが及ばなかった。
そっと顔を上げると、異形は少女の方を見ていた。なにをするでもなく。
少女は、かあっと全身が赤くなって、心臓が早鐘を打つのを感じた。
異形ではあるのだが、どことなく知性をかもしだす、その風貌。
もしかして、これが宇宙人というやつ?
宇宙人ならば、知的生命体であり、地球人よりも優れた存在なのかもしれない。
それが公園のベンチに座っているのは、なぜだろう?
宇宙人といっても、疲れたときは公園のベンチに座るのか?
そんな素朴な疑問が頭に浮かんだ。
すると、脳裏にある言葉が浮かんだ。
(宇宙人)  グッドイブニングだね、お嬢さん。
(少女)  えーっ、英語使ってる⁉️
お嬢さんと呼ばれて、一瞬、誰のことかわからなかったが、ここには自分しかいないので、自分のことだろう。
(少女)  しゃ、しゃべれるの?
あわあわしながら、そう思考すると、すぐに返事が頭の中に浮かんだ。
(宇宙人)  もちろん。いま、君の言語中枢を使って対話している。
 だから、君の知っている言葉しか使えないが、コミュニケーションにはそれでじゅうぶんだろう。
(少女)  なるほど。それなら納得。
 …いやいや、納得じゃなくって!
宇宙人とのテレパシィーになれないのか、少女はものすごく動揺していた。
しゃべらなくてもコミュニケーションできるのは、楽でいいのだが、なんだか自分の考えを見透かされてるようで、こわい。
少女の頭には、他人には知られたくない秘密がたくさんあるのだ。
(少女)  でもまあ、人じゃない、か…。
そう思い、おずおずと宇宙人の方に視線をうつす。
身の丈二メートル以上はあろうかというのっぽな体型。
頭頂付近にふたつの飛び出た目らしきものが見える。
自分の顔の高さのあたりにも顔のようなものが見える。
(少女)  もしかして、なにかの着ぐるみだったりして。
なあんだ、そっか。
きっとテレビか何かのロケで公園に来てて、今、休憩中なんだ。
そうやって、自分の気持ちの整理をつけようとした。
すると、
(宇宙人)  現実逃避はやめたまえ。
と来た。
(少女)  ああ〜、やっぱりぃ〜!
がっかりする少女。
せっかく、そそくさと立ち上がって、おうちに帰ろうと思ったのに。
相手が宇宙人では、簡単には解放してくれそうもない。
(宇宙人)  ご明察。
と宇宙人。
いちいち、先回りして、通信してくる。
でも、こちらに危害を加えるつもりはなさそうだ。あれば、とっくにやってるだろう。
少女は、少し落ち着くと、
(少女)  宇宙人としっかり対話しなくちゃ!
と身構えた。
(宇宙人)  そんなに警戒しなくていい。わたしはあなたと少しの時間、話をしたいだけなんだ。
 日が暮れるまでのわずかな時間を私にくれないか。
(少女)  え、まあ、それぐらいなら、いいけど。
そう言葉が口をついて、出た。
宇宙人は表情を変えなかったが、なんとなく笑っているように見えた。
つづく
第二話
2024.3.30