Mさんと久しぶりに会った。
彼の下で働いていた頃、私は毎日罵声を浴びせられていた。
仕事を離れるとまるで別人。
私 『今何してるの?』
彼 『オーストラリアに牧場を買ったよ。』
私 『へ~。じゃぁ、もうマーケットには戻らないの?』
彼 『いや、求職活動もしてるよ。2・3、声はかかってるよ。』
近況をお互い報告しあった。
彼 『何で不動産業界に入った?』
私 『・・・。』
なぜだろう。
いきなり核心をつかれたような感じで言葉に詰まった。
素直に自分の考えを言えばよかったのに。
彼 『仕事、うまくいってないのか?』
私 『・・・。仲間とうまくいってないんです。』
彼 『今までのお前じゃ、うまくいくはずがないよな。』
私 『・・・。』
ついでとばかりに、質問攻めしてみた。
なぜ今の私ではうまくいかないのか?
~当時の私はとにかく自分のことしか考えていなかったらしい。
なぜ私を採用したのか?
~経験者よりも、Mの色に染められる若い新人が欲しかった&給料も安く済む。
なぜあの銀行は東京市場からの撤退を決めたのか?
~頭取(オーナー)の気まぐれらしい。
などなど。
もうどうでも良くなった。
つまりは、私なんて、たくさんある部品のネジ以下の価値もなかったのだ。
数年後、新聞の一面に大きな記事が載った。
当時疑問に感じたことなど、ほぼすべての点が線でつながった。
実は、東京市場からの撤退は、とんでもない大事件の裏舞台を消し去るための、証拠隠滅のためだった。
そして、銀行のみならず、オーナー自身もマフィアによって消されることになる。
結局、Mさんも今はのんびり牧場で過ごしている。
裏舞台の中心人物の一人だった彼が金融業界に居座り続けることなどできるはずがない。
まぁ、ディーラーとして巨万の富を築いた後だから働く必要はないだろう。
本気で後悔した。
この銀行に入るんじゃなかった・・・。
(つづく)