私が学生のころ、親戚の娘さんが韓国の人と結婚するということで、その韓国の人に案内されて大阪の鶴橋を訪れたことがある。そのころは朝鮮人と部落民がいっしょくたんに差別されていた時代で、私の親戚のほとんどがこの結婚に反対しており、たまたま京都に住んでいた私が新婦の親族代表みたいな形で、新郎となる人の実家のある鶴橋を案内されたのである。案内された実家は中二階のある三階建ての古い木造の家屋で、いくつかの階段が迷路のように斜めに走って部屋と部屋をつないでおり、その部屋部屋に数世帯が同居しておられ、日本とは妙に違うにおいもたちこめていた。そこで紹介された新郎となる人の親族の方々は全員済州島の出身で、今はみなさんの顔はほとんど覚えていないが、ひとりチョゴリ姿のきれいな若い女性がいて、掃き溜めに鶴のようだったことだけは記憶に残っている。そのあと新郎となる人の実家を出て、新婦となる人と私は鶴橋の雑多な町中を歩き、一軒の食堂でレーメンを注文した。が、めんは黒く味も独特で、二人ともほとんど口に入れることができなかった。

 

ひと昔前、NHKで「大阪ラブ&ソウル」というドラマをやっていた。在日三世の若者とミャンマーの難民の女性との恋の物語なのだが、ドラマのベースとして流れていたのは、第二次大戦後日本から独立した朝鮮が38度線で分断され、北はソ連、南は米国に統治されていたころに起こった済州島での四三抗争である。この抗争のことはあまり知られていないが、どうも済州島の若者が南北統一朝鮮の実現に向けて運動していたのを、米国傘下の南の政権が赤狩りよろしくこの運動を弾圧しようとしたのがきっかけのようだ。この抗争で島民の2割の人が虐待されて亡くなっている。このドラマの主人公の祖父と祖母はこの抗争から命からがら脱出し、元の占領国である日本へ逃げのびて来たのである。ミャンマーの民主化運動で軍事政権から弾圧を受け日本に難民としてやってきたドラマの恋人役の女性と似たような状況にあったわけだ。

 

私の親戚の娘さんのご主人もやはり済州島の出身である。どうして日本に住むようになったのかについては、ご主人は語ってくれなかったが、ご主人の父親が済州島でアカデミックな仕事に従事しておられたとのことだから、やはり、この四三抗争を避けて家族で日本に移ってこられたようである。それまでは親しく付き合っていた島内の隣人たちが、北と南、ソ連と米国、共産党と軍事政権、ゲリラと政府などといった区分けをされて戦わざるを得なかったのであるから、その心身の痛みは言語に絶するものだったと思われる。

 

私は韓流ブーム到来直前に釜山を旅したことがある。そのとき歩いた町並みにはあの独特のにおい(恐らくキムチの薬味のにおい)がただよっており、それでも山あいにある寺院の空気はすがすがしく、また食堂で食べたレーメンは昔鶴橋で食べたレーメンと同じく黒いめんではあったが、とてもおいしかった。

 

ドラマのタイトルである「ラブ&ソウル」の「ソウル」は韓国の首都のことではなく「魂」のことである。ドラマの中で、主人公がハーモニカで奏でるブルースは、まさに「魂」の調べだった。そういえば、今、ハーモニカを吹く人をあまり見かけない。淋しい。