米国が軍事的に中国と張り合っても平和は訪れない 専門家が指摘
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米バージニア州アーリントンにある米国防総省本部。2025年1月27日撮影(Jen Golbeck/SOPA Images/LightRocket via Getty Images)
中国がもたらす軍事的脅威について過剰に心配し、誇張する行為は、米国の政界では小さな産業となっている。
米国より予算が2.5倍少ない国がなぜ急成長しているのかを説明するために、数字をごまかしているにせよ、中国と比較して米国の製造業や科学技術の欠点を誇張しているにせよ、メッセージは同じだ——
米国が向こう数年間で中国に軍事面で匹敵するためには、より多くの予算を投入し、より多くの取り組みを行う必要がある。
しかし現実には「米国の国防費は中国の予算をはるかに上回っている」と、米国防総省のドブ・ザクハイム元会計検査官は指摘している。
一方、米紙ウォールストリート・ジャーナルは、両超大国の相対的な経済力について、船舶建造、製造業、産業用ロボット、重要な原材料の分野では中国が主導権を握っているか、間もなく握るだろうとする刺激的な論考を掲載。
その記事はこう結ばれていた。「米国が大きな紛争に直面した場合、20世紀の2度の世界大戦の時のように産業と労働力の再編成が必要になるだろう」 だが、安全保障は単なる生産能力だけの問題ではない。
例えば、核戦争のリスクを低減する上ではあまり意味がない。
米国は推定3700発の核弾頭を保有しているのに対し、中国は680発だ。
中国が近年、核兵器の備蓄を増強させてきたのは事実だが、それに対抗して米国がさらに核兵器を増やそうとすることは、限られた資金の誤用となるだろう。
2022年に米ラトガース大学の気候科学者が主導した研究では、わずか100発の核兵器による小規模な核戦争であっても、地球の食料生産能力に大きな損害を与え、長期的には50億人以上の死傷者を出す可能性があることが判明した。
人類が生き残るための鍵は、核兵器を備蓄することではなく、世界を滅亡させる戦争が決して起こらないようにするための外交手段を見出すことにある。
この厳しい現実を踏まえると、米国防総省による新世代の核兵器の開発は間違った方向に進んでいることになる。
中国との間で軍拡競争を繰り広げることは莫大な費用を伴うが、一体その目的は何なのだろうか?
台湾を巡る米中戦争は、たとえ核戦争に発展しなくても、関係するすべての国にとって大惨事となるだろう。
両陣営ともに甚大な被害を受け、世界経済全体、特に台湾経済に深刻な打撃を与えることになろう。
そして、核兵器を保有する二国間の戦争が全面的な核戦争に発展しないという保証はない。
米政府は台湾を巡る中国との戦争の準備に時間を費やすより、戦争を防ぐ方法を探ることに時間を割くべきだ。
それは、台湾の将来の地位とその実現方法について、中国と共通の理解に達することを意味する。
まさにそのような理解が、50年間にわたって台湾海峡の平和を維持してきた「1つの中国」政策の基盤を成している。
中国の生産能力に対する懸念がある場合、その解決策は米経済の強化に投資することであり、気候変動や感染症のパンデミック(世界的な流行)といった人類の存在を脅かす課題に対処するために必要な資金や人材を軍拡競争に投入することではない。
こうした新たな世界の脅威に対処するには中国と対立するのではなく、協力することが必要だ。
米中は最も親密な関係になる必要はないが、核兵器や航空母艦、ロボット兵器の建造では解決できない、私たちが直面している最も差し迫った脅威からそれぞれの国民をいかに守るかについて理解し合う必要がある。
中国との関係構築では、冷戦時代、ましてや第二次世界大戦を想起させるような政策ではなく、新たな方法が必要だ。
結果が世界を大きく左右する以上、戦争の可能性を高めるだけの時代遅れの考え方にとらわれるべきではない。