近くに富田医院と言う内科医の家があり、新築工事のための解体作業が行われていた、当時は全て
手作業であり床板はがしを行っていた大工さんの手が突然止まったと言う、
床下に大きな蛇が「とぐろ」を巻いており動かない、側に沢山の蛇の卵がありそれを守っているのである
院長に相談したようで、作業は一時中断となった、聞き伝えではあるがおそらくその蛇は
富田家の「やじらみ」(家の主として古くから住み着きその家を守ってきた蛇の方言)だから
蛇がいなくなるまで作業はやめて欲しいとの伝言は、アッとゆう間に近所中に広まった、子供はもちろん
大勢の大人が遠巻きに見始めた、普通ならそこで蛇は逃げ出すのだが卵を守ってピクリとも動かない,
大人達は手を出すなと子供達を諭して立ち去った、良く感察すると蛇の太さは子供の手首より遙かに太く
手を出せる相手ではないおそらく2メートル前後はあった、
卵は楕円形でやや細長く卵の細い部分で卵同士がつながっている、色は良く覚えていないが
淡く青みがかっていたようだ、飽きもせず日がな一日眺めていたが、2日後の朝蛇はいなくなっていた
卵の大半は、もぬけの殻となっていて3~4個は残っておりそこで初めて蛇の卵をさわった
鶏などの卵と違って卵の殻は柔らかく少し伸び縮みする、その中の一個から子蛇が出てきた
鉛筆くらいの細さで蛇といえど可愛らしかったのを良く覚えている、大人に諭されていたこともあり
そっと草むらに放した、人は蛇やサソリなどを蛇蝎として忌み嫌うが身を呈して卵を守った母蛇の
母性愛は「万物の霊長」として威張っている人間に勝るとも劣らない、
最近の子供達はゲームと言うバーチャルの世界での生き死にを体験しているだけの子が多く
生物がみな持っている生死に関わる喜びや悲しみの実体験が少ないために色々な血なまぐさい事件
を引き起こし物議を醸している、自然を甦らせ実体験を多く持たせることが大人としての責任であろう
後日談・・・富田医院の裏の畑で大蛇の脱皮を目撃した体を畑の柵に擦りつけ頭の部分が割れて
古い皮を裏返しながらゆっくりと出てきた出たての蛇は何か弱々しく肌が濡れたように
光っていた、抜け殻は家で計ったら2メートル5センチあった、親が大切に保管していたが
今は無い。