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高山式部源宗東の描く妖怪の世界

幽霊には本来、足があった……らしい。


たとえば中国の幽霊である「鬼(キ)」とは、ほとんど生きていた当時と同様の姿で現れ、当然、ずかずかと歩きまわる。中国の古典的怪奇小説の中には、足音を踏み鳴らす幽霊も出てきたりする。


日本でも、中世以前の幽霊には、足が無いという積極的記述は見当たらない。


「幽霊」とは字のごとく、身体を失った霊(みたま)がぼぅっと幽(かそけ)くなって出てきたものだから、あんまり堂々と大地と接触している姿は、相応しくはあるまい。つまりは、足はあるとも、無いとも明言されていない……というのが、本来なのだろう。


幽霊の足の有無論争になると必ず引き合いに出されるのが、丸山応挙の逸話で、「応挙が描いた足の無い幽霊画があまりにも真に迫っていたため、以後、幽霊を描く際は、足を描かないようになった」と説明されることが多い。

江戸末期の随筆『さへずり草』にも、「応挙が工夫を凝らして足の無い幽霊を描いたら、皆そう描くようになった。


夏でも寒気がするほど真に迫っていた」と記されている。


写生を重んじた応挙が、存在しないはずの幽霊を描いたというのも妙な話だが、あるいはこの天才絵師にこの世ならぬものを見る目があって、常人には見えざるモノを写生していたと解釈すれば、また一興である。


とはいえ、足のない幽霊は応挙の専売特許というわけでもない。

第9話


たとえば諏訪春雄氏は、伝近松門左衛門作の『花山院きさきあらそひ』(寛文十三・1673 年刊)の挿画が、現在判明している最も古い足の無い幽霊の画であるとしておられるし、絵画史の研究家としても知られる近代画家吉川観方はその著書『絵画に見えたる妖怪』の中で、足のない幽霊画のルーツを、元禄期、さらには室町期まで辿り得るのではないかと論じている。


そもそも、ぼうっとした話……である。





髙山式部源宗東 識

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