mizusumashi-tei みずすまし亭通信 -33ページ目

ゾラ・一撃・さようなら

 

大人になったらね、つい、何が楽しかったのかって、分析してしまうんだ。僕は車を運転するのが好きだけど、どうして好きなのかなって、理由を考えてしまう。それで、エンジン音が好きなんだ、この空冷の音じゃなければ駄目なんだって、どんどん拘っていくんだよ。本当は、ただ、ぼんやりと楽しいだけなのにね。

森博嗣 ゾラ・一撃・さようなら(151p)

 

たとえばどこかから銃で狙われている、なんて誰も考えていない。 そんな危険は非現実、すっかり忘れていられる。 周囲にいる者は、善良な人間ばかりだ、と信じきっている。 平和とは、そういう宗教だ。換言すれば、 祈ること、そして、信じられること。 祈るだけで、迎えに来てくれるもの。それが平和だ。 

森博嗣 ゾラ・一撃・さようなら(155p)

 

 

自分の命は自分のものだ。取られて他人のものになるわけではない。今まで生きてこられたのだから、ここで死んだって良いではないか。と考えると、どんなシチュエーションであっても、笑えるほどに冷静になれるものだ。

森博嗣 ゾラ・一撃・さようなら(189p)

 

思い出は、どれも無色だ。後から色を塗って、綺麗にするか、それとも汚くするか、そのいずれかだろう。僕はそういうふうに考える。

森博嗣 ゾラ・一撃・さようなら(191p)

 

 

ハードボイルドは、詩である抒情を盛り込むための渇いた(スーパー・ドライな)器だと私は考える。戦前の反体制派文人(詩人)が軍部のパージに会い、その多くはミステリや捕物帖の書き手になったり、海外ミステリの翻訳ものに逃避したのには、それなりの必然があったのだと思う。

 

 

森博嗣『ゾラ・一撃・さようなら(2007)集英社』は『暗闇・キッス・それだけで』の前作にあたる。私立探偵・頸城悦夫のシリーズ。構成は両作とも同工異曲(インタビュー本のライターとして宿泊している富豪の豪邸での殺人)ながら、頸城の語り口がしっかりハードボイルドしていて、惹かれますね。