M.W.クレイヴンの刑事ワシントン・ポー・シリーズ『ボタニストの殺人(2022)ハヤカワ文庫』第5作最新刊。ポーの仕事仲間、病理学者で変人のエステル・ドイルの父親が自室で銃殺され、容疑者としてエステルが逮捕される。殺害時、あいにくの降雪で自宅までは彼女が歩いた足跡のみ。しかも彼女の両腕からはなぜか硝煙反応が検知される。犯行に使用された銃は不明。室内内部から破られたガラス窓から川に投げ捨てられたのか?
エステルに父親殺害の動機はない。普段の彼女を知るポーは無実を確信するほどに、巧妙に仕掛けられた完全無欠なトリックが立ちはだかる。時を同じくして、衆目のなかで、あるいは警察が監視する密室で連続して殺人が発生する。しかも手のこんだ予告付きの毒殺。この連続密室殺人によって各署警察は混乱の極みに。
M.W.クレイヴン:ボタニストの殺人(2022)ハヤカワ文庫
密室殺人を二つ掛け持ちすることになったポーと分析官テリーの凸凹コンビは眼の下に隈を作って捜査を尽くすが、なかなか光明が見いだせず。といった内容で、今回はついに本格推理に挑戦している。本格推理は主人公が〝謎解き〟に集中するあまり動きがなくなるところだが、刑事ものということもありその辺りの工夫は十分されている。
毒殺の考察もユーモアがあって。たとえば「バナナに含まれるカリウムは天然位存在する放射性同位体で、たくさん食べれば放射能中毒になる。私(テリー)の見積りだと12時間で一億本食べれば致死量に達する」チーズだって食べ過ぎれば毒になる。などと、ほんとに笑わせてくれる。現在、人気も含めて一番熱いミステリのひとつだろう。次作が待ち遠しい。