ドラマ 真田太平記のお江・田子庄左衛門
中田耕治『異聞霧隠才蔵』の冒頭。新田才蔵は真田幸村の命を帯びて大谷吉継の軍にいたが関ヶ原の戦いで敗走。吉継の娘有布姫と侍女の梓を伴い落ちのびるさなか山賤に襲われる。才蔵は瀕死の怪我を負い、有布姫は殺され、恋心を抱いていた梓は拉致され娼家に売られた。後に山賤は服部半蔵の手下と知る。
才蔵は隠れ里に暮らす名張一族(織田信長によって滅ぼされた伊賀忍者の生残り)に助けられ恢復すると、そこで復讐の念を飼いながら厳しい忍術の修行を開始、ついに霧隠の術を会得する。溟い怨念に縁どられたハードボイルドで、物語は終盤に暴かれる驚くべき裏切りの結末まで疾駆する。
中田耕治:異聞霧隠才蔵(1988)大陸文庫
中田耕治:異聞真田幸村(1967)東都書房
この中田耕治の〝異聞〟シリーズ『異聞霧隠才蔵』を再読していて気づいたのは、先行した『異聞猿飛佐助』ともども発表されたのは1963年だったこと。実はわが国に米ハードボイルド文学が移入されたのはちょうどこの頃のことで、中田耕治はまさに、その新興文学を先行したひとりだった。
中田は1958年に米版『MANHUNT』誌の日本語版として創刊された雑誌『マンハント』に翻訳スタッフとして参加、ミッキー・スピレイン『裁くのは俺だ』などを翻訳。また、1961年にハードボイルド作品『危険な女』で小説家デビューを果たした。異聞シリーズはわが国ハードボイルド小説の黎明を彩る。
M.スピレイン:マイク・ハマーシリーズ
そして『異聞霧隠才蔵』の内容と相似した印象を持たれるのが、白土三平の少年マンガ『サスケ』や『ワタリ』で、大作『カムイ伝』へと流れていく。
忍びの社会は厳しい上下関係と掟に縛られ、その社会からの離脱は死を意味する。戦後の忍者ブームには、そうした忍者とハードボイルドとの親和性を持つ。理不尽な戦争という暴力によって顕在化した不条理や欺瞞、差別などは、怒りの文学として若者の支持を得ていったのだ。
さて、イラストは池波正太郎原作のドラマ『真田太平記(1985-86)』に登場する真田忍者のお江(遥くらら)と、山中忍者の田子庄左衛門(井川比佐志)を。懐かしい。