先ブログで鶯亭金升に触れたついでに、万亭応賀 まんていおうが『釈迦八相倭文庫(1935)三教書院』を紹介したい。初出は弘化2〜明治4年(1845〜71)間に刊行された草双紙で、釈迦が示現した八相を平易な読み物に翻案したもの。合巻、全57編。挿絵は3代歌川豊国・2代歌川国貞が描いた。
紹介する本著は鈴木種次郎の編集によって上下巻に改版(昭10)されたもので、それぞれ豊国の(刺青がごとき)木版口絵が挿入されている。
万亭応賀:釈迦八相倭文庫 一(1935)三教書院
万亭応賀:釈迦八相倭文庫 二(1935)三教書院
ところで、以前、20代で亡くなった明治女性の日記を読んだことがあった。女学校出の彼女の娯楽のひとつが「若い僧侶の説教を聴く」というもので、夜分に友人隣人を集ってインテリ僧のお話をうっとりと聴いた。若いインテリ美男僧によるちょっとした教養講座だったのかも知れない。
巻頭の解題に「釈尊の伝を日本風に和らめて、婦女子の情のうつるように色をつけた」とあり「女性がお釈迦さまの伝記など読むのか?」と思ったものだが、女性たちにとって夜の(遊興)おでかけなどご法度の時代に、こうしたありがたい説法は許されたという事情もあったのだろう。
木版口絵と扉 表紙(右)
初出本を複写した挿絵が数葉挿入されている
鶯亭金升によると、万亭応賀は神田明神下の服部某の息子で一番の財産家。当時は一番若かったので客分扱い、晩年になって『釈迦八相倭文庫』で知られるようになったとある。