北森鴻。佐月恭壱シリーズ | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

北森鴻の銀座の花師にして絵画修復師「佐月恭壱シリーズ」は、作家の死によって2冊・6作が遺された。やはり、主人公が天才的な絵画修復師ということで、絶えず贋作との汀みぎわに身を置くことになり、一方で欲まみれの蒐集家による誘惑や罠が張りめぐされ、物語は剃刀刃をつたうが如く進行する。

 

作者は実際の修復師や画商、骨董商などを取材して、克明にその修復過程を描写していて、このシリーズの読みどころになっている。洞窟の壁画修復をモチーフにした『血色夢』や、藤田嗣治の風景画をめぐる『葡萄と乳房』など、いずれも密度の高い仕上がりで、作者の早世によって途絶したのが惜しまれる。

 

北森鴻:深淵のガランス(2006)文春文庫

北森鴻:虚栄の肖像  (2008)文春文庫

 

純粋な美術作品の鑑賞とは別に、美術品を所有する、あるいは売買するといった欲得にまみれた底知れぬ闇の世界と、その闇に巣食う魔物に魅入られた人びとの汚泥のなかで、一掬の良心たるべきか。佐月恭壱は汚泥からの脱出口を見つけだせるのか。スリリングな展開が楽しめる作品です。

 

洞窟の壁画修復をモチーフにした『血色夢』などは映像化したら面白いと思うのだが。イラストは、中華系裏社会を仕切る朱大人の娘朱明花のイメージ。本作品には名前は明かされないものの、旗師「冬狐堂」の宇佐美陶子が登場、少しダークなたたずまいで絡んでくる。久しぶりの再読。

 

ノブドウとボケの実

 

アオハダの実