入江たか子(1927)16歳
いっとき山本夏彦(1915-2002)本に没頭したころがあった。彼の随筆コラムは800字か1200字くらいの短い文章が多く、それでいて言わんとしたテーマがきちんと語られている。また、頑固な職人の細工物のように転結がきちんと象眼されていて、かつそこに作者本人の人物像が立ちのぼる見事な内容なのだ。
やがて山本夏彦本はまとめて古書店に流してしまったが、その後も未読本を見つけては買っていたので手元に幾冊か残っている。久しぶりに『死ぬの大好き(1999)新潮社』を拾い読みしてみたが相変わらず面白い。「死ぬの大好き」「ダメのひと」といった書名も見事でフツーの爺さんじゃない。
「白髪は知恵のしるしではない。私は15歳にして心はすでに朽ちていたのである。この世は生きるに値しないところだと私は子供心に天啓に打たれたから以後は見物人になったのである。傍観するものはつまびらかなりという箴言があるが、見れば見るほど人間というものはいやなものだなあ(p.190)」独言極まれり。