挿絵画家 苅谷深隍と右門捕物帖 .01 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

苅谷深隍:南海行の織江(1928?)少女倶楽部絵葉書

 

挿絵画家としての苅谷深隍は大正末から昭和10年頃まで、主な仕事は雑誌「ポケット」に連載した大佛次郎「鞍馬天狗」初期、そして代表作は佐々木味津三「右門捕物帖」というところで『名作挿画全集(1935)』第6巻には『右門』から『献上博多人形』を選んでわざわざ描きなおした作品が収録されている。

 

名作挿画全集収録の右門捕物帖

 

佐々木味津三:右門捕物帖 正続(1929,31)博文館

 

苅谷深隍は鏑木清方門下で苅谷鷺行の画号を用いているが、残念ながらその作品を目にしたことはない。挿絵は端正で女性も巧みに描いているところから、本絵(日本画)も師である清方風なタッチではないかと思われるが… 少女倶楽部の絵はがき用に描かれた大佛次郎『南海行の織江』は少女向けなので、なんとも。

 

続右門捕物帖 挿絵から

 

『続右門捕物帖』左上挿絵は『献上博多人形』の初出で『名作挿絵全集』のものと比べて欲しい。なお、佐々木味津三の『右門捕物帖』は以降の捕物の定型となった作品、昭和初期以降の捕物ブームの火付けになった記念碑的な側面を持つ。手元にあるのは痛本で、できれば美本が欲しいのだが高額で、なかなか。

 

佐々木味津三:白粉蜘蛛(1934)平凡社

 

佐々木味津三『白粉蜘蛛』に収録されているのは、苅谷鷺行のサインが入っていて珍しい(のかも)。タッチの具合から『右門』以前の作品のような気がする。『白粉蜘蛛』の初出年が判れば疑問が解けるのだが、残念ながら不明。推論通りならば、最初の頃は「鷺行」を用い、後に「深隍」と改めたと思われる。