乙川優三郎:男の縁。再生の物語 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

乙川優三郎『男の縁(2006)講談社』は全8篇収録の自撰短篇集(武家篇)。ほぼほぼ、山本周五郎を洗練させるとこうした作品になるのかな、という感じ。緻密で彫琢が〝すぎて〟というキライもあるかもしれないが、乙川の時代小説はどれを読んでも、その完成度の高い仕上がりに感心する。

 

家格を保つために婿に迎えられたものの、継子誕生とともに疎まれ、しかも無役であるため仕事もなく終日無為に過ごしている。40代を迎えた主人公はこのまま朽ち果てるには耐えられず、手慰みとしていた陶芸に没入。ついには職人として生きるべく武士を捨てようとする「柴の家」など、再生の物語が心地いい。

 

 

久しぶりに乙川優三郎『蔓の端々(2000)講談社文庫』を読み返したら後を引いてしまった。内容的には、現代小説だとそんなにうまくはいかないよな、と思っちゃうところなのだが、時代小説の良さは直截な描写(あからさま)であっても「オラももうちっと頑張ろう」という気にさせられる。

 

アメリカ人にとって心の拠り所(故郷)といえばカントリーやブルース、(古い世代の)日本人にとっては演歌よりも時代劇にあるのではないかい。