高橋睦郎:反アンジェリコ
地獄だって つねに盗まれている
人は希望を失った時に絶望するのだが、だから絶望のなかには幻滅があり、つまり希望の幻がある。しかし、希望の幻そのものが存在しない時、人はどうやって絶望すればいいのか。詩人は(中略)それを完璧な形式のなかで、美しい舞踊のような優雅さで問いかけてくるから、更にその恐ろしさは計り知れない。
中村真一郎「読書好日」のなかの一編「詩の季節」の、高橋睦郎の詩「反アンジェリコ」について触れた一部。高橋の「地獄だって つねに盗まれている」という一節のみでも胸をつかれるが、中村真一郎による解読の精度と密度にも心打たれる。言い古された文意がこんなにもみずみずしくよみがえる。