江戸川乱歩と同潤館 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信

同潤館全景(左下)と入口(上・右下)

 

江戸川乱歩「D坂の殺人事件」で初登場した明智小五郎は、貧乏書生然としていたが、昭和5年に発表された「魔術師(文藝倶楽部)」「吸血鬼(報知新聞)」では、同潤会の建築家の一人・森本厚吉が「日本の中産階級者の住居として指導的なる」と語った〝開化(お茶の水)アパート〟の住人になっている。

 

明智小五郎は(森本厚吉が建てたお茶の水アパートの)2階の表側の3室を借り切って、住居、事務所にしているのである。

 

同潤館正面 階段 3階ギャラリー入口(左から)

 

昭和初期の地図に同潤館アパートをマーキングすると、繁華街を中心としたスラム近縁に建てられていて、貧民街を善導するような意図があったらしい。また、このような地区だったからこそ、(乱歩自身を反映した)引越し魔「陰獣」大江春泥や犯罪者がうごめき、彼らを追う明智小五郎も活躍できたのだろう。

 

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現在は現代的なビル群の中にあるからこそ、古めかしい同潤館が際立つのだろうが、昭和初期にあっては関東大震災でバラックばかりのスラム街に、近代的な3階建てアパートメントとして威容を誇っていたはずだ。このあたりは松山巖「乱歩と東京(ちくま学芸文庫)」に詳しい。興味ある方にはお勧めしたい。