
石沢英太郎:噂を集め過ぎた男(1977)新評社
乾くるみ「蒼林堂古書店へようこそ」は、どうってことはない日常のささいな謎(とも言えないような謎)を扱った短編集だが、一編ごとに作品に盛り込まれたテーマに沿って簡便な〝ミステリー案内〟が附録されていて、作品とセットになっている。〝ミステリー案内〟は若者向けにしては(今ではあまり読まれなくなった)結構渋めの作品も紹介されていて、ちょっと驚かされる。たとえば、戸板康二の「中村雅楽シリーズ」であったり、この石沢英太郎であったり。
ということで、事務所近くの古書店で石沢英太郎の短編「噂を集め過ぎた男(1977)新評社」を見つけたので読んでみることに。腰帯に心理派ミステリとあるごとく、穏やかな展開で現在のサービス盛りだくさんのミステリとは隔世している。つまり古くさい。のだが、なんともおっとりとした時代感が漂っていて、ハリウッド的展開以前のミステリというのも捨て難い、というか。古くさいところが新鮮というかね。(若い人たちはどんな感想を持つのだろうか?)本間憲一の装釘で70年代らしい雰囲気が漂っている。