中島京子の「かたづの!」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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 中島京子:かたづの!(2014)集英社

中島京子「かたづの!」初出は「小説すばる(2013年1月号~14年2月号)」江戸時代初期、南部藩八戸領の女城主・祢々(ねね)の一代記。八戸氏城主の娘祢々はひとり娘だったため同族より婿養子をとるが、後に本家筋から夫と継嗣を謀殺され、(本家の傀儡とならぬために)やむなく女亭主(領主)として城主となる。この女亭主は時おり〝神憑き〟状態になるなど、徹底した非戦主義を貫き、理不尽にも八戸から(当時辺地であった)遠野への移封をも受入れた。

止むことなき南部藩当主南部利直の介入、隣藩伊達家との領地争いなどを粘り強く交渉するなど苦難の日々が続くが、最後の決着ははたして… といった内容。夫や子を殺されお家乗っ取りを拒むために髪を下ろし尼になるという凄惨なお話ながら、祢々が子どものころに出会った一本角の羚羊(死して後はその角)によって語らせ、河童やぺりかん、十和田湖の主である大蛇まで登場するといった(遠野を舞台ということもあって)メルヘンな味付けで暗澹たる展開に和らぎを与えている。

「小さなおうち」の作者による歴史物はいかがなものかと読んでみたが読後感は悪くない。歴史物は苦手といった読者にもお勧めできる。書題は「かたづの(片角)」ということなのですね。