光瀬龍の明治残侠探偵帖 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
明治残侠探偵帖
 光瀬龍:明治残侠探偵帖(1983-1977初出)徳間文庫

江戸時代末期の江戸は人口約100万人都市などといわれたが、徳川幕府の瓦解によって府内の武士は各々地元(出身藩)に戻っていく。武士はまったくの無産階級ながら、あるいはそれゆえひたすら消費する人たちが帰京したことで(一時)人口は半減すっかり不景気になってしまった。近代化をいそぐ新政府は資本主義の導入に急ぐあまり、現代でいうところの商業上のコンプライアンスなどなきがごとし。弱肉強食、官民癒着による収賄汚職が紊乱する。

零落した武士階級を筆頭に人心は荒廃し、灯りのない夜道などは夜盗が横行恐ろしくて歩けたものではない。明治時代の闇は濃く、雑駁な日常の中にあっても人々は手探りしながら営みを続けていた。光瀬龍「明治残侠探偵帖」はそんな日常がほのみえるように描き込まれてる。洋行帰りの主人公・新宮寺清之助(客警視)はちょっと作りものめいているが、新宮寺とタッグを組む無頼の探偵・捨吉とその周縁は表情豊かに描かれる。客警視というのは警察の依頼で調査活動する遊軍探偵のことらしい。

中編3篇をおさめたこの探偵帖は新宮寺がほとんど登場しない最終話が一番面白く、光瀬も新宮寺のキャラクター設定に違和を感じていたのかもしれない。1970年代は山田風太郎によって明治を舞台にした傑作作品集が次々と生み出されたが、光瀬龍もそれに刺激されたのだろうかね? 古本整理かたがた読み直してみた。