
岡田禎子:正子とその職業(1928)改造社
改造社の「新鋭文学叢書」全16巻の一冊で唯一の戯曲集です。昭和5年の発行で〝新鋭〟と呼ぶに相応しい内容、昭和初期の文壇の傾向をほどよく反映している。岡田禎子「正子とその職業」は菊池寛によって、この一作品で文学史に名を残すに価するとまで激賞された。正子は(男に懲りた)叔母が運営する〝女性の駆け込み寺〟的施設を手伝っている(当時としては)ハイミスで、どうやら結婚に関しては願望はありながらも諦めているふしがある。
その施設の〝避難女性〟の中には、別れた夫とやり直してみようと思うものもあるが、叔母は男たちを憎むあまり「幸せになれるはずがない」と強硬に反対する。しかし一方で、独り身の叔母の〝避難女性〟への依存傾向を懸念する正子は、たとえ再び失敗するにしても結婚生活をやり直したいという意志があるのならやらせたら、と叔母に諭す。ひとり独酌を楽しんだりする(自由思想の持ち主である)正子の会話が活き活きと活写され魅力的である。
女同士の気のおけない会話が自然に描けて心地よく、正子さんは現代でも〝こんなひといるよね〟って感じ、ちょっと向田邦子を思い浮かべましたね。岡田の郷里では「岡田禎子作品集(1983)愛媛県立松山南高校同窓会編/青英舎」が編まれているようで、図書館本であれば読んでみたいのだが。