山手樹一郎の明朗時代小説(02 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
遠山政談
 山手樹一郎:遠山政談(1957.10)小説倶楽部
小説倶楽部
 講談倶楽部(1954)と小説倶楽部

山手樹一郎の代表作となると、やはり「桃太郎侍」「夢介千両みやげ(1948)」唯一の歴史小説「華山と長英」になるのだろうが、私が読んだ限りではどの作品も同工異曲で、作品群全体が一つの作品を形成している。実は讃岐丸亀藩の双子の片割れだった「桃太郎侍」右田新二郎にしても「青空浪人」建部源太郎にしても、(どちらかというと一本足りないくらいに)温順快活ながらいざとなると意外と頼りになる。争いは極力避ける方で、理不尽であっても平和主義に徹底する。

徳川家血筋の「又四郎行状記」笠井又四郎にいたっては、とりあえず「怪我をしても詰まらぬ」と、お金で片がつくならと大金をまき散らす。いずれおとらず春風駘蕩、かつ女性にはきわめて淡白(あるいは晩生で)おきゃん娘じゃじゃ馬姫に追いかけられる。「青空浪人」前半部は手妻師となった商家娘の復讐譚だが、三上於菟吉「雪之丞変化」まんまの設定で、おやおやと思ってしまうほど。ちょっと気が引けたのか付け足した後半部は、蛇足な塩梅である。

高木彬光
 高木彬光:刺青一代女(小説倶楽部)富永謙太郎挿絵

昭和30年代前半からTVの普及が急速に進み、40年代に入ると「TV時代劇」の全盛と、私世代(昭和30年前後生れ)はこの波をもろにかぶった。それまでの娯楽の王様は芝居→映画にあったが、さすがに毎日映画を観に行くわけにはいかないから、その代用娯楽としてこれらの娯楽小説群が供給された。山手樹一郎が貸本人気作家のトップになったのは昭和30年頃だから、これ以降の大衆小説はある意味変容せざるを得なくなる。本を読むよりTVで観た方が安易なのだからね。

菅原謙次
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