イプセン・森鴎外訳:ノラ(大2)警醒社
太田正雄(木下杢太郎)装幀・和田英作 扉絵
イプセン「人形の家」は1879(明12)年に書かれた戯曲で同年デンマーク王立劇場で上演された。わが国には明治26年に高安月郊訳で紹介され、明治末に島村抱月の演出、松井須磨子のノラで初演された。もちろん抱月による翻訳本(早稲田出版)も出版されている。背表紙の取れた森鴎外訳「ノラ」安価本が手に入ったので読み返してみた。「鴎外の翻訳はへたくそだが理工系の味わいがある」とかなんとか言ったのは正宗白鳥だったか。
確かに(当時としてはしかたがないと思うが)生硬な翻訳で、上記正宗白鳥の批評を思いだしたりもしたが、大正時代らしい古雅な雰囲気は悪くない。「人形の家(ノラ)」についてはいまさら本なので書かないが、大正に入り高まりつつある女権運動の中で鴎外のアンテナの感度は敏感です。もっとも「青鞜」創刊号には鴎外の妹金井喜美子が巻頭言を、妻しげ子の名前もありましたかね? ネットにはまったく記載が見当たらないようだが、当本は太田正雄(木下杢太郎)の装幀、扉絵は和田英作が担当している。
どこかに記載があったよなと探しに探したあげく、ようやく「森鴎外と美術(2006)」展図録の図版キャプションに載っていた。どうというところのないオーソドックスな装幀本だが(自身の記憶に)留めておきたい。