太田三郎「風俗おんな往来」とロシア文学 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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 パイを焼くオードリー

「野田ともうします」野田さんは東京平成大学文学部「ロシア語」科に在籍しているが、現在「ロシア語」専攻って人気はないンだろう。野田さんが在籍しているくらいだからね。二葉亭四迷のおかげでツルゲーネフ→トルストイ(内田魯庵)→ドストエフスキー、ショーロホフ「静かなドン(原久一郎)」は読まれているのかな。チェーホフ「桜の園」はかろうじて滑り込み? 私が中学生の頃「あなたはトルストイ派?ドストエフスキー派?」なんて特集を大真面目でやっていた。

ドストエフスキーは「読みやすい」新訳文庫が評判で読まれているようだが、トルストイ「戦争と平和」ナターシャ・ロストワやアンナ・カレーニンの恋の行方に胸を痛めるひとはどれくらいいるのだろう。少し下ってノーベル賞作家ソルジェニーツィンだってすでに影が薄い。もっとも、近代以前のわが国の文学だって「古典」という名の(もっとも読まれない)外国文学になった。現在の日本文学の両親が外国作品からの「翻訳文学」というのですから、私たちは外人に引取られた孤児みたいなものかも。

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 太田三郎:風俗おんな往来(昭35)新紀元社

我が師(かってに)太田三郎の73才ころの著作、新聞などに書いた「おんな風俗」をテーマにした随筆集。エロスを売りにした女芸人始末記、戦前まであった略奪婚、アイヌの貞操帯、絵画(ヌード)モデル事始、日本からアジアをまたにかけて縦横無尽話題旺盛な著述で、生成自在な描線は老いてなお健在というところ。ほんとうに文章を書き描くのが楽しくてといった感じ、湧きいずる泉のごとくな「おんな」風俗絵巻でありまする。もっとも風俗すら完全に「外国(古典)」になりましたかね。