内堀弘「ボン書店の幻」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
$.-ボン書店
内堀弘:ボン書店の幻(2008)ちくま文庫

著者の内堀弘は古書店「石神井書林」の店主、詩歌書を専門に20~30年代のモダニズム文献を扱っているうちに、個人出版を始めたボン書店の(詩人でもあった)鳥羽茂(いかし)の瀟洒な造本に出会う。鳥羽はシュールやモダンの詩集を中心に、妻とふたりで自ら活版機で印刷し手製本するから、多くはロットの少ない限定本で、時に自前資金を足してまで詩集を造る。そのボン書店の足跡は昭和9年~13年でとぎれるものの、その間刊行された雑誌「マダム・ブランシュ→レスプリ・ヌウボゥ→詩学」は、モダニズム詩を牽引した北園克衛、春山行夫、安西冬衛を巻き込んだ。

貧困に耐え身を削りながら詩集を世に送り出していったが、樋口一葉等と同様、栄養失調からくる結核を患い、妻が倒れ自身も27歳の生涯を故郷である大分県緒方村で終えた。著者は残されたわずかな詩集の奥付をたよりに無名氏を淡々と追い求め、痕跡を断ってしまったボン書房の幻を立ち上らせた。初出本は1992年白地社から刊行されたが、ぜひこちらの(文庫版のための少し長いあとがき)を含む改訂版を読んでいただきたい。


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