子母澤寛「幕末巷談」の小笠原壱岐守 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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子母澤寛:幕末巷談:塩川書房 昭5年

函欠本ながらちょっと珍しい子母澤寛「幕末巷談」は河野通勢による木版装。見開き・扉・口絵も木版摺、二色刷り口絵4葉付、なお木版画は名人彫師・伊上凡骨の手になるもので、しかも著者署名本というおまけ付きでありまする。そっと押し頂いて読ませていただきました。贅沢。幕末エピソードを当時の生き残りから話を聞き、巷談の形でまとめている。中編一篇、短編五篇を載せる。さて、小笠原壱岐守は妾腹ゆえ部屋住みの身だったが英邁の声高く、幕末の多難時にあって外国御用掛に任じられる。

生麦事件では、ひとり多額の賠償金支払いに疑義を差し上げたが聞き入れられず、攘夷に凝り固まった朝廷の怒りが伝わると、水戸の徳川斉昭・一橋慶喜の讒言にあって蟄居となった。第2次長州征伐では将軍の死をもって和睦にもちこみ再び蟄居、維新後は幕府時代の活躍がアダとなって北海道に逃亡、函館に戦塵が移るとメリケン(米国)に逃げたと噂された。実は外国に逃げたことにして国内でのんびり隠棲していたようである。

この小笠原長行は北海道から江戸に戻るに、途中越後の百姓家のまぐさの中で一ヶ月ほども隠れ暮したそうではたしてどちらにおられたものか。ちょっと厭世なところがあり、かつ悠揚として、しかも機智に富んでいて、なかなか面白い人物ですね。