ケン・ブルーウン「酔いどれに悪人なし」と鈴木牧之「北越雪譜」 | mizusumashi-tei みずすまし亭通信
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珍しいベニバナトチノキです。トチノキとマロニエ(セイヨウトチノキ)の雑種だそうです。新潟長野県境の秋山郷には樹齢数百年の巨樹があると聞きます。栃の実まんじゅうは名物。この栃の実は堅いので知られ、まるで石のごとく数日水にさらしておいてもなんのその、秋山郷では飢饉の折りにはこの実を砕いて団子にし命をつないだと言われています。が、雪深い地方で飢饉で全滅した部落も多々記録されています。興味のある方は鈴木牧之「北越雪譜」でもお読みください。長岡市役所前のトチノキ並木が見事です。

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 眠りきて埃おさまれどもなれは 埃とともに残されしおり

 それがアル中の末路だわめきながら死ぬんだ 最悪だな

ケン・ブルーウン「酔いどれに悪人なし/原題:THE GUARDS」あまりの邦題にパスしようと思ったのですが、リーガル警部ものと同様スコットランドの、こちらはスピード違反をしてシラをきる偉そうな議員さんをぶん殴ってクビになるわが同胞であります。いたしかたありませぬ、読むことに。主人公ジャックはアイルランドのゴールウェイで前職を利して私立探偵を開業しますが、完全にアル中で時おり歯止めが効かなくなり意識を失って病院に担ぎ込まれます。禁酒プログラムを守り復帰しますが…

アル中探偵では有名なマット・スカダーのシリーズがありますが、こちらは強い意志と高級コールガールあがりの恋人の力を借りてアル中を克服しています。ジャックは自分の身の回りの人々を巻き込みながら少しずつ自壊していくようすです。このジャックは亡き父親の影響から読書好きで、アルコールの切れ間に本を開いています。一人称形式で散文的文体の珍しい味わいが感じられます。当然、本からのさまざまな引用に満ちていますので、煩わしい向きにはお進め致しません。

アイルランドも新潟も寒いので酒を呑みます。特に男どもは悲哀孤独を引き金に割合安易に中毒いたしまする。まぁアルコールも読書も共に逃避であります。作品の最後は、コーヒーに浸した角砂糖が最初ゆっくりと融け始め、やがて一挙に崩れるように瓦解するのでありました。ちょっと感傷の余韻が気になりますが、次作に進みたいと思います。東野さやか訳、ミステリの優れた翻訳家は女性が多いようです。そういえば、村上春樹の新訳でチャンドラー「ロング・グッドバイ/大いなる別れ」が出ているとのことで、図書館蔵書をネット予約しておきました。楽しみです。こちらも図書館本。